第3話 思い出の茸
必死に止めるギンガを何とか説得した蒼唯は、森の中を進む。
魔獣が闊歩しているとの垂れ込みであったが、ギンガがたまたま持っていた、魔獣避けの薬草を素材に、お守りを作ったため魔獣の影さえ見えない。
ただ森特有の歩き難さが蒼唯の足を止めさせる。
「元の世界の私の身体も相当貧弱だったですけど、この年端行ずボディは凄いです。ちょっと歩いただけでへとへとです」
元の世界でも殆どダンジョン探索などしなかった蒼唯であるが、それでも何度か周りにせがまれる形で行ったため、少なからずレベルアップによる肉体強化が成されていた。
しかしこの身体は、そもそも栄養不足なのか、年相応の体力すら儘ならないようであった。
「ふう、これじゃ、会う前に、また倒れちゃうです。まったくです…あ、あんなところにちょうど良い茸です」
それでも頑張ってふらふらながら森を彷徨っていると、立派な傘を持った大きな茸が生えているのが見える。
「ここに来る前も、ぬいが生やしたこんな感じの茸で皆で寝たですね。ついさっきのことの様な遠い昔のことのような不思議な感覚ですけど。取り敢えずここで寝させて貰おうです」
茸を生やしたり育てたりするのが特技なぬいは、眠りを司ると言うほど睡眠に精通したまっくよに指導されながら、『安寝茸』なる寝具用茸をよく生やしていたななどと思い出話を夢想しながら、大きな茸に寝転ぶ蒼唯は、転生ショックと森歩きの疲れが祟ったのか直ぐに眠りに付いてしまうのであった。
目が覚めると茸の上で眠る蒼唯の周りを数えきれない数の魔獣が取り囲んでいた。
「うわ、びっくりしたです!」
おそらくお守りの効果で近付けないが、そうでなければ寝ている間にボコボコにされていた間合いである。
「何か凄い眼で私を見てくるですね。もしかしてこの茸、お前たちにとって大切な茸だったで…うわその数で一斉に首振るなです!」
言葉が通じなくとも伝わるモノはあるのか、蒼唯の問いに一斉に首を縦に振る魔獣たち。
魔獣たちの思いを汲み取るならば、誰かが来る前にこの娘を茸から退かさないと怒られると言った所だろうか。
「分かったです。そこまで懇願されるなら退くで…」
「ぬいぬ!!」
仕方がないので蒼唯が茸から降りようとすると、遠くの方から可愛らしい怒号が聞こえてくる。
それを聞いた魔獣たちはもう涙眼で蒼唯の方を見てくるが、もう間に合わない。
魔獣の波を掻き分けて現れた怒号の主は魔獣たちの中でも一際小さい犬型『ぬいぐるみ』であった。
「なるほど。此れは本当に『安寝茸』だったですかぬい」
「ぬい! …ぬぃ」
「そうです。私です。ちょっと身体は変わっちゃってるですけど、魂は…っていきなり抱きついたら危ないです」
「ぬいぬい!! ぬいー!」
「よしよしです」
蒼唯とぬいたちは魂で繋がっている。そのため異世界に来て身体が変わった蒼唯でも、ぬいに取っては当たり前に判別が出来る。逆に蒼唯も何となく繋がってそうな気配を森の中から感じた事で『金の王』が生やす木?というあやふやな情報を頼りに森を彷徨ったのである。
「ぬいぬ?」
「そうなんです。この身体、栄養不足っぽいんです。腹もペコペコ、喉もカラカラです」
「ぬいぬい!」
「「「ガオォォ!!」」」
再会の喜びもあり何時もより強めに飛び付いてしまったと自覚のあるぬいだが、それにしても抵抗が少ない蒼唯を見て心配になる。
そのためお腹いっぱい食べさせるべく、異世界に来てから僕にした魔獣たちに指示を出すぬいであった。
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