第2話 秘密の関係
――アンナからの話を受けて、リセエラは改めてロイリィの下へと戻った。
部屋に入ると、ロイリィは相変わらずベッドに横になったままだが、眠ってはいないようだった。
「あ、リセエラ。おかえりなさい。どこに行っていたの?」
「少々知り合いのところまで相談を。そこで――ロイリィ様の症状について確認して参りました」
「! 原因が分かったということ?」
ロイリィは身体を起こして、リセエラに問いかけた。
彼女自身、体調不良の原因については知りたいのだろう――一体、どうしてこうなってしまったのか、と。
リセエラはロイリィのベッドの横に椅子を運んで腰掛けて、彼女に向かって問う。
「単刀直入にお聞きしますが――ロイリィ様、好きなお方はいらっしゃいますか?」
「? 好きなお方って?」
「お慕いしている方です。恋愛感情を抱いている、というべきでしょうか」
「……!? そ、その話が今、どうして関係があるの……?」
ロイリィは少し焦ったような様子を見せる。
――反応を見るに、いるのだろう。
ずっと傍に仕えていながら、気付けなかった。
リセエラは、アンナから聞いたことをそのままではなく――少し脚色するような形で伝える。
「恋煩いのようなもの……とでも言うべきでしょうか。おそらく、そうした気持ちを伝えられないことが、今のロイリィ様の体調不良の原因であると考えられます。だから、医師の診断では特定できなかった、と」
「そ、そう……」
ロイリィは視線を落として、何やら考え込むような仕草を見せた。
――こればかりは、リセエラに何かできることがあるわけではない。
好きな人がいたとしても、彼女は皇女という身分――叶えられるかどうかも分からない。
だが、ロイリィは彼女を支えると決めている。
だから――あくまで応援するのがリセエラの立場だ。
「私はロイリィ様が騎士としての活動に集中したいことをよく知っています。もしも、その活動を続けたいのであれば――お慕いしている方へ告白をするなど、何かしらの対応は必要になるかと思います」
「こ、告白……!?」
「難しいですか?」
「そ、それは……長いこと、その、知っている間柄だし」
長いこと知っている間柄――リセエラも長いこと一緒にいるが、そんな相手がいるとは気付かなかった。
彼女のことは何でも知っていると思っていたが、自分は何も知らなかったということだろうか。
少し傷ついてしまう――といっても、それはあくまでリセエラが勝手に知ったつもりでいただけのこと。
だから、応援するという立場に変わりはない。
リセエラは、ロイリィの手を優しく握る。
「私は恋愛などのお話は得意ではありません。ですが、私にできることなら力になります」
「……できることなら?」
「はい」
「それなら、私とキス、できる……?」
「はい――はい?」
ロイリィの言葉を受けて、リセエラは思わず問い返してしまった。
――見れば、ロイリィは随分と緊張した表情で。
今までに見たことがないほどに、それこそ――好きな人に手を握られているかのような。
いかに恋愛事情などに詳しくないといっても、リセエラとて気付いてしまう。
ロイリィが誰を好きなのかを。
長いこと知っている間柄というのなら――確かにその通り、当てはまる。
ロイリィが好きな相手はリセエラなのだ。
なら、それを理解した上でどう答えるべきか――しばしの静寂の後、リセエラは口を開く。
「私はロイリィ様――あなたの護衛メイドです。あなたの身を守ること、それから身の回りのお世話が中心で、恋愛対象にはならない」
「……っ」
「――そう思っていましたが、あなたが私を必要とするのであれば、それにお応えするのが私の役目です」
「! それって――」
リセエラは、ロイリィの口を塞ぐようにして――口づけを交わす。
やや驚いた表情を見せたロイリィであったが、すぐにそれを受け入れた。
リセエラにとっても初めてのキスで――果たして上手くできただろうか。
それは分からないが、触れ合う程度の優しい口づけを終えると、ロイリィはより強くリセエラの手を握る。
「この後のことも、お願いできる……?」
「もちろん、お望みのままに――」
そうして――リセエラとロイリィはそのままベッドを共にする。
皇女とメイドは、二人だけの秘密の関係で結ばれることになった。
護衛メイドと獣人姫騎士 ~長年仕えている皇女様は私のことが好きらしい~ 笹塔五郎 @sasacibe
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます