護衛メイドと獣人姫騎士 ~長年仕えている皇女様は私のことが好きらしい~
笹塔五郎
第1話 単刀直入
――リセエラ・ディーネスは『エルベルタ帝国』の第二皇女、ロイリィ・エルベルタに仕える『護衛メイド』である。
護衛メイドとは――身の回りの世話だけではなく、仕える主の命を守るために戦闘も可能した者であり、リセエラはロイリィに長年仕えていた。
ロイリィは皇女の身でありながら騎士の活動に従事しており、人々の平和を守るために魔物や犯罪者と戦う道を選び、そんな彼女のサポートするのもまた、リセエラの役目だ。
ロイリィの体調面の管理もリセエラの仕事の一つであるが――
「申し訳ございません。体調の変化に気付いておきながら、止めることができなかった私に責任があります」
長い黒髪を束ね、白と黒を基調としたメイドとしての正装に身を包んだリセエラは――ロイリィに対して深々と頭を下げた。
仕事の一環で魔物の討伐に出た時のこと――ロイリィは戦闘の途中でふらつき、危うく大怪我を負うところであった。
結果的にはリセエラが近くにいたから事なきを得たものの、少し遅れたらどうなっていたことか分からない。
「そ、そんなことないわ! ちゃんと言い出せなかった私の責任よ。あなたは止めたのに、私が無理に出かけたから」
ここ最近――帝都の近辺にも魔物が多く出没している。
ロイリィは率先して魔物狩りに出るが、それが負担となっている可能性は十分に考えられた。
彼女が帝国内においても騎士として実力が高いこともまた――頼られる要因の一つとなっているだろう。
ロイリィは――その身に魔物の特徴を持つ『獣憑き』と呼ばれていた。
白く長い髪からは同じ色の狼のような耳が生えており、腰の辺りからも同じ色の尻尾が見える。
かつては『獣憑き』のことを『忌み子』と呼び、生まれてすぐに殺すこともあったと聞く。
――一部では、皇族に生まれた場合には不幸を呼ぶ子、などという迷信も囁かれているが、今では完全とは言えないが、受け入れられている。
獣の特徴を持つ人間――故に、『獣人』と呼ぶのが一般的になっている。
その数はまだ少なく、ロイリィの騎士の活動が結果的に獣人の存在が広く知られ、そうした偏見を解いていくことにも繋がっているのだろう。
だが――やはり彼女の日々の活動には無理があったのだろうか。
そう考えていたのだが、ロイリィを見た医師からは「原因が分からない」と言われてしまった。
――彼女が獣人であることもあるいは影響しているのか、何であれ普通の人間とは違うこともあって、体調不良の原因が掴めない。
「休めばすぐに良くなると思うし、気にしないで?」
ロイリィはそう言って笑顔を見せるが――頬は紅潮しており、どこか呼吸も荒い。
リセエラでなくても、彼女の体調が芳しくないのは目に見えて明らかだった。
「――そういうわけで、ロイリィ様の体調不良の原因を突き止めていただきたく」
「ふぅん? それで私に頼み事をしに来たわけか。珍しいこともあるものだと思ったけれど」
ロイリィを部屋で休ませている間に、リセエラが向かったのは――帝都の外れで暮らす魔術師の女性、アンナ・ヘーベンの下だ。
やや露出度の高いローブに身を包んだ彼女は『魔女』とも呼ばれており、特に魔術の分野に精通している。
ただし、帝国が有する魔術師団になどは所属していない、いわゆるフリーの魔術師であった。
かつては獣人に興味があったらしく、そうした方面の研究も行っていたと聞く。
ロイリィにも研究目的で近づいたことがあったために、リセエラは彼女のことがあまり好きではない――むしろ嫌いではあるが、その知識については頼りになるところがある。
「あくまで、あなたの知識をお借りしたいのです。獣人の方で似たような症状を聞いたことがないか、と」
「症状としてはシンプルに風邪に似ているけれど、薬は効かず――症状は好転しない。医師が調べても原因不明。熱っぽい感じはある、と」
「はい。原因が分かれば、薬剤が必要ならすぐに調達致しますし、そのために必要となる資金も準備してあります」
「そのお金、あなたの自腹でしょ。あなたなら、もっと稼げる仕事あるんだから紹介してあげましょうか?」
「今はロイリィ様の話をしています。あなたでも分からないのであれば……他の方に相談します」
リセエラはそう言って踵を返す。
「待ちなさいよ。別に分からないとは言っていないわ。むしろ、似たような症状ならよく知っているわよ」
「! 本当ですか!?」
リセエラが食い気味に寄ると、アンナは少し引き気味に言う。
「あなた、皇女様のことになると本当に人が変わるというか……。まあ、それが原因なのかもしれないけれど」
「どういう意味です?」
「まあ、いいわ。本来なら本人を直接診断すれば確定できることだけれど、話を聞いているだけでも分かるレベルだし」
「だから、何が原因なのですか? 前払いで必要ならいくらでも――」
「お金はいいわ。だって、別に私から何かすることはないもの」
「……? どういうことです? 病気や呪いの類ではないと?」
「そうね。単刀直入に言ってしまうと――皇女様は発情期なのよ」
「……はつじょう?」
リセエラは思わず、その言葉を繰り返してしまう。
アンナが何を言っているのか、すぐに理解できなかったからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます