第2話

 日曜日、私は大学時代の同期、中原と会った。ここ二、三年はお互い忙しくて会っていなかったので、久しぶりに会えるのは嬉しかった。

 上野駅で待ち合わせた。改札からは、家族連れや観光客がぞろぞろと出てきた。皆んな動物園か、私と同じように博物館に行くのだろう。

 改札の行列の中から、一際目立つ背の高いのがこちらに向かってきた。


「久しぶり」


 中原だ。


「何年振りだっけ。めっちゃ懐かしい感じがするよ」


 久しぶりの再会に嬉しくなった。


「じゃあ、行こうか」


 私はそう言って歩き始めた。今日の目当ては西洋美術館。モネの特別展が開かれている。中原は美術史の研究で博士課程に進んだ。だからこの展覧会に誘ったのだ。私は彼の話を聞くのが好きだ。豊富な知識に裏付けされた、彼の美術品の説明は、私をワクワクさせてくれる。


 美術館はかなり混んでいた。ようやく中に入ることができたが、あまりじっくりとみる時間はなさそうだ。けれども、中原は作品を観るたびに私に興奮気味で色々と話してくれる。


「あ、『睡蓮』だ。いいよね、これ。これは……」


 正直、私は美術の知識はない。それでも、彼の話は分かりやすいし、何より彼自身が楽しんでいることが伝わるので、こちらも楽しくなってくる。とても混雑しているはずなのに、私はそんなことは全く気にならなかった。

 いつの間にかミュージアムショップまでたどり着いていた。


「このポストカードいいね」


「確かに。めっちゃ綺麗。あ、こっちもいいんじゃない?」


 お土産コーナーを物色し、各々気に入ったものを購入して美術館を後にした。


 私たちは、近くの喫茶店で少し休憩をすることにした。店内はレトロな落ち着いた雰囲気で、私の好みに合っていた。おすすめはレトロプリンらしい。


「ここの喫茶店、プリンが美味しいらしいよ」


「じゃあそれにしようかな。飲み物は?」


「ホットコーヒー。中原は?」


「俺は紅茶にしようかな」


 注文したものが来るまで、私たちはさっきの展覧会で気に入った作品の話などをしていた。辻島とのくだらない駄弁りも好きだが、こういう文化的な議論も楽しい。

 プリンと飲み物が来た。固めのカスタードプリンと、苦いコーヒーの組み合わせは最高だった。

 美術館に行って、喫茶店でお茶をして、作品について議論をする。大学生に戻った気分だ。


「ありがとう」


「どうしたの突然」


「いや、何でもない。何となく言いたくなっただけ。そろそろ、出ようか」


 外に出ると、空が少し赤みががっていた。一日が終わる合図とも感じられる、淋しさの漂うこの時間が、私は好きだ。


 駅には、楽しかったね、とはしゃいでいたり、名残惜しそうにしている子供がたくさんいた。私も、久しぶりに子供のような気持ちになることができた。


「それじゃあ、じゃあね」


「うん、またね」


そう言って、私たちは改札で別れた。

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