俺の背中に羽がついていた

仁志隆生

俺の背中に羽がついていた

 青白い光に照らされ、辺り一面骸骨が散らばってやがる。

 俺にはお似合いのとこだな。


 ガキの頃から盗みやったり汚い事もいろいろやりで、ある時に人斬ってから腕磨いて、気がつけば傭兵剣士になって、時には逃げ出したりしてなんとか……もう何年生きてたか忘れたわ。


 そんで、何の因果か勇者の仲間になってよう。

 その勇者を庇って死んじまったが、それでもやっぱ地獄行きか。

 って俺も甘い考えするようになったわ。

 

 あいつらと会えたおかげで、最後に薔薇色の人生送れたんだ。

 そんだけでもよしなんだからなあ。


 そんでどっち行けばいいんだ?

 ま、適当に行くか。

 って骸骨だらけで歩き辛え。

 潰さねえよう隙間をつま先立ちで歩くか。


 って、こういうとこもだよなあ。前ならお構いなしだったのによ。




 しばらくそうしていると、寝転べそうなスペースがあった。

 ふう、ちょいと休むか。

 死んでても疲れるもんなんだな。


 しかしよ、あいつらどうしてっかな。

 地獄からでも現世が見えるって聞いた事あるんだが、どうやら噓っぱちだったみてえだな。

 やっぱあいつ生臭坊主だったか。


 なあ神さんよ。

 俺、あいつらに見守ってやるって言っちまったんだよ。

 だからなんとかしてくれねえかなあ?

 そんくらいいいだろ?


 って言ってたら。


「なんや、あんた現世見たいんか?」

 近くにあった骸骨が起き上がって喋りやがったあ!


「そんな驚かんでもええやんか。それより見たいんやったらあっち行ったらええで」

 骸骨がご丁寧に左の方を指した。

「あ、ありがとな。んじゃ」


「ああ待ちいや。ちょいとこっちに背中向けてな」

 骸骨が呼び止めてそう言ってきやがった。

「おお、こうか?」

「そや。んじゃ……」

 背中に骨が当たってるって、なんとも言えねえな。

「ほい、ええで」

「ん? 何だったんだって、おい!」

 見ると俺の背中になんかの骨でできた羽がついていた。


「目的地まで結構あるさかい、これで飛んでった方が早いで」

「こんなので飛べっかよ!」

「あんた、ここどこや思うとんねん?」

 骸骨がなんか呆れた雰囲気で言いやがったが、たしかにそうだな。

 よし、えっと……。

 

 お? 意外と簡単に浮いたわ。


「上手いもんやな。んじゃ気いつけてな」

「ああ、ありがとな。そんじゃ」

 俺は骸骨が指した方へ飛んで行った。


――――――


 ……結構来たがなんも見えねえ。

 つか、吹雪になったもんだから飛べねえ。

 幸い歩ける一本道があったんでまだマシだが……寒い。

 死なねえけど凍え死んじまいそうだ。


 あれ?

 いつの間にかちょいとした小屋の前に着いていた。

 まさかここか?

 いや違っててもちょっと暖まりてえし、よし。


 戸を開けると、中には暖炉があってテーブルとベッド、そんで壁側にでっけえ鏡台があった。


 早速暖炉に火を、と思ったら勝手に点きやがった。

 暖けえって思ってたら、背中の羽がぼとっと落ちちまいやがった。

 ああ、ここで合ってるんだな。


 俺は羽を拾って鏡台の横に置いた。

 おい、短けえ間だったがありがとな。 


 って疲れた。

 ちょいと寝るか。


――――――


 ん? なんか声がするな。

 他の悪人が来やがったか?


 目を開けて起き上がったが、誰もいなかった。

 空耳か?


 ……いや、聞こえるな。

 泣き声みてえなのが、あっちから。


 そこは鏡台がある方で、よく見ると鏡になんか写ってやがる。

 俺の顔じゃねえ何かが。


 なんだと思って見てみると……え?


 そこに写ってたのは勇者達だった。

 んで、墓の前で泣いてやがった。


 ああ、あれ俺のなんだな。

 結構いいの建ててくれたんだなあ。

 ありがとよ、おめえら。

 だがそこに俺はいねえからな。


――――――

 

 その後、この小屋で勇者達を見ていた。

 なんつーか見たいと思ったらあいつらが映りやがる。

 けどたぶん神さんのだからか、嬢ちゃん達の着替えや風呂は見えねえなあ。

 

 と思ったら勇者が剣構えてこっち睨んでいる場面が出てきた。

 ってそりゃねえだろが!



 とまあ毎回死んでるのに生きた心地しねえとなりながら見守ってたがよう。

 長い旅の末にやっとこさ勇者達が魔王を倒し、さあとどめかと思ったら。


 ……一緒に世界を平和しようって説得し始めやがった。


 って何しとんじゃおめえは!?

 あ、魔王の額に青筋が……やばい、って嬢ちゃん達も一緒にしてんじゃねえ!



 なんかどちらかが正義でも悪でもなく、どちらにも戦う理由があった、どちらも悪くないとか。

 心ならずも戦ってしまったがそれで分かりあえたのではないかとか。

 

 おい、綺麗事が魔王に……いや。

 そうだった。

 あいつらならきっとって、死ぬ前に思ったんだった。

 


 そんでよ……。


 あいつら、やりがったぜ!

 魔王が勇者と握手してるぜ、おい!

 思わず雄叫びあげちまったじゃねえかよお!

 

 ん?

 おいこら、なんか映像歪んできてるじゃねえか。

 これじゃ見えねえじゃねえかよ。

 なあ神さん、これなんとかしてくれよお。


 あはははははは……。


――――――


 あれからしばらくして、勇者が僧侶の嬢ちゃんと結婚しやがった。

 まあ、あいつら相思相愛だったもんなあ。

 僧侶の嬢ちゃんにセクハラした時が一番激怒してたな、勇者は。

 当たり前か。

 

 あ、戦士の嬢ちゃんが王子様に求婚されてやがる。

 嬢ちゃんも勇者が好きだったんだよな、けど勝てねえって陰で泣いてやがったなあ……。

 王子様はまあ典型的なボンボンでありゃ駄目だって思ったが……訂正するわ。

 たしかに武はダメだが、政治は一流だったわ。

 悪どい政治屋を追放してるし、今でも勇者や魔王と一緒に良い世界作ろうって頑張ってるじゃねえか。

 なあ嬢ちゃん、ちょいと考えてやれや。 



 なんだ?

 魔法使いの嬢ちゃん、勉強してやがる。

 へえ、王家に仕えるための試験受けるってか。

 今の嬢ちゃんなら向こうが頭下げて来てくれだろに、くそ真面目だなあ。

 ま、大丈夫だろな。無理して本番で倒れんなよ。



 その後も勇者と僧侶の嬢ちゃんに子供ができたり、

 戦士の嬢ちゃんが結局王妃になったり、魔法使いの嬢ちゃんが王宮魔導師になったりして……あっという間に10年も経っちまった。


 ほんと死んでると時間が経つのが早えわ。

 つか俺ここに籠りっきりだったな。

 ちょいと外出るか。


「……は?」

 

 山のようにあった骨が無くなってて、代わりに花畑になってやがる?

 これじゃあ地獄じゃねえだろ。


「そうや。ここは地獄ちゃうで」

「うおっ!?」

 そこにいたのはあの時の骸骨だった。


「そない驚かんでええやんねん」

「いや驚くわ! てかあんた何者だよ!?」

 ただの死人じゃねえだろ、こいつ。


「ああ、わいはこの『見守の場』の管理者や」

「はい? それってなんだよ?」

「ここはな、現世の縁者を見守りたいと願って死んだもんが辿り着く場所やねん」

 骸骨が両手を広げて言う。


「……そうなのかよ。しかし俺みてえな悪党の願いも叶えてくれるのかよ」

「人を見守ろと思う奴が悪い奴な訳あるかいな」

「そっかよ……けどそろそろおしめえにしてえけど、いいか?」

 いいかげん地獄行かねえとだしな。


「ええで。じゃあへの道開こうか」

「は? いやだから俺は」

「さっきも言うたやろが。ここへ来る奴は悪い奴やないし、そもそも地獄への道はここにあらへんで」

「……そうかよ。って、お?」


 いつの間にか俺の背中に骨の、じゃなくて真っ白い大きな羽がついていた。

「まるで天使みてえ、って似合わねえなあ」


「いやよう似合とるで。んじゃ、あそこに向かっていけばええで」

 骸骨が空を指したんで見ると光り輝く扉が開いてて、その向こうに楽園みてえなとこがあった。


「長い間お疲れさんやったな。これからは向こうでお子さんら待っときや」

「ああ、もう開き直ってそうさせてもらうわ。そんじゃありがとな」


 俺は背中の羽を広げ、扉目掛けて思いっきり飛び上がった。




 おい、前にも言ったがおめえらは俺みてえに良くも悪くもじゃなく、良い方だけの薔薇色の人生送ってから来いよ。


 そんでよ、酒でも飲みながらそれ話してくれよな。


 じゃあな、待ってるぜ……。

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俺の背中に羽がついていた 仁志隆生 @ryuseienbu

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