第39話 まさかこんな日が来ようとは

 夕食後お風呂を済ませて、私と姉のみのりちゃんは居間に集合した。


「それじゃお姉ちゃん。始めるよ」

「う、うん……でも何だろう。こんなの、昔は全然気にしなかったのに」

「そりゃ、子供の時の様にはいかないよ。僕もお姉ちゃんも大きくなったんだから。でも嫌な気持ちで触れ合っても多分ダメだから、嫌なら言ってね」

「大丈夫よ。私があき君を嫌な訳ないじゃない!」そうは言うものの、みのりちゃんはちょっと震えている様にも見えた。だが……お母さんの為にもここは踏ん張ってもらわなければ。


 そして二人で下着姿で合い向かって立ち、お互いの肩に手をやり、そこからすーっと肌にそって腕をなぞりながら手を降ろしていく。


 キュンキュンキュンキュン……


 ◇◇◇


 お母さんの病気の進行を止める為、私はみのりちゃん、ミュウちゃん、若葉ちゃんのマナをかき集めて、一世一代の魔法を敢行するつもりなのだが、まだまだ準備が足りない。

 白血病の浸潤が進みだすと一気に病状が悪化する事もある様なので、私が小学生のうちに何とかしたいのだが、病気に対して魔法でどんな作用を与えればいいのか。どうやって大量のマナを集め魔法に変換していくかが大きな課題で、そして安定して大量にマナを得る為には、どうしてもみのりちゃんの協力が不可欠なのだ。そのため、始めは差し障りのないじゃれ合いからだが、先日からマナ生成の練習を始めた。


 そしてはっきり分かった事がある。


 この、姉で造るマナは、ミュウちゃんや若葉ちゃんで造るものより、明かに質が良いというか濃いというか……相当品質に開きがあったのだ。先日、霊安室で二人とマナを造った際、昔のあの夏の日、母で造ったマナの方が質が良さそうに思えた訳だが……直接血が繋がっている相手の方が、より良質のマナを生成するのは間違いなかろう。


 確かにこれなら……仮にみのりちゃんと、男女の最後の関係まで行けば、想像を絶するマナが生成され、ミュウちゃんや若葉ちゃんの補助はいらないかも知れない。それだけじゃない。これで私のオドの能力がもっと高まれば大量にマナを蓄えられ、それで異世界に帰還する事も夢ではなくなる……しかし、それは禁忌だ。私はみのりちゃんと最後の一線を越える事は出来ない。だから、ミュウちゃんと若葉ちゃんの補助も多分必須なのだ。

 そうは言っても一応、みのりちゃん一人だけで、現時点でどこまでマナの出力が上がるのかの限界は知っておく必要がある。そこで、じゃれ合いにもちょっと慣れてきた三月初頭。私は思い切ってみのりちゃんに提案した。


「お姉ちゃん。お互いの大事なところに触れあってみない? も、もちろん、布越しで……」

 さすがにみのりちゃんも驚いた様で、顔を真っ赤にして無口になってしまった。


「だめかな? 胸とかお尻から少しずつ慣れて行くのも有りかもだけど、あんまり時間もなくてさ。ミュウちゃんと若葉ちゃんに支援してもらうにしても、ギリギリのところでのお姉ちゃんのマナ出力限界を知っておきたいんだよ」


「……った」みのりちゃんが何か言ったが、小声で聞き取れない。

「はい?」

「分かった! 今回のミッションの言い出しっぺは私だしね。あき君。遠慮はいらないわ。どーんと触って頂戴! でも……乱暴にしないでね」

「う、うん……」


 そして居間の電気を消し、灯りは窓の外の街灯だけの状態だ。みのりちゃんと私は、お互い、もうすっかり見慣れた下着姿で向かい合って立っている。


「それじゃお姉ちゃん……」

「うん……」

 私は吐息がかかる位、姉に近づいて、右掌をショーツの上から姉の体にあてがった。うわっ。なんか熱がすごく伝わってくる。

  

 キュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュン


「……あき君。手は動かさないでね……」そう言う姉の呼吸がちょっと荒くなっているのが判った。

「うん安心して姉さん。徐々に慣れて行こうね。それじゃ姉さんも、僕に触れて……」

「わかった……」暗がりの中、みのりちゃんが眼を閉じたのが判った。

 そして右手がゆっくり私のへそに近づいて来て、そっと触れた。

「姉さん。もう少し下かな」

「もう! 分かってるわよ!!」

 そしてみのりちゃんが、手探りで掌を私のへそから下に降ろし、私の一部にみのりちゃんの手があたった瞬間。いきなり私達二人の身体が輝き始めた。


「わっ、あき君。これ何?」みのりちゃんが驚いて顔を上げる。

「あっ、姉さん。今、僕から手を離しちゃダメ!! 触れ続けて……これ、マナの輻輳ハウリングだよ。ははは、なんてこった。まさかこんな日が来ようとは……」

「ちょっとあき君。どういう事なのよ。分かんないわよ。これ大丈夫なの?」

「うん姉さん。心配しないで、これは二人のマナが干渉しあって光を発しているんだ。つまり。姉さん自身も、僕でキュンキュンしてマナを造れているって事なんだよ!」

「へっ、そうなの? それじゃこのアソコがピリピリしているのって」

「ああ。布越しでも姉さんがマナを生成しているのがはっきり判るよ。すごい、すごいぞこりゃ!」

「ねえあき君。じらさないで教えて。何がすごいの? 私、なんかムズムズして来て腰が抜けそうなんだけど?」

 確かにみのりちゃんの下半身がプルプル震えてきた様に思える。

「ごめんごめん。そろそろ手を放すね。慣れないとマナで全身がしびれちゃうから。姉さん自身がマナを造れるってことはさ。姉さんも魔法を使える素質があるって事なんだよ!!」

「ええっ、マジ?」


 私が手を放すと、みのりちゃんは大きな吐息と共に、ヘナヘナとその場に女の子座りしてしまった。

「あー、あき君。もうだめ。私、腰が抜けた……あとでお風呂入るの手伝ってよね」


 そうかそう言う事か。以前、若葉ちゃんでも少し感じた事があったけど、あの時は輻輳だなんて思わなかったな。だけど姉さんだと生成されるマナの量がすごくてすぐに判った。姉さんに魔法の素養もあるという事は、そのうちオドも使える様になるんじゃなかろうか。そうすれば、私と姉さんのオドを合わせて、二人で異世界に行くのも本当に夢じゃないかもしれないぞ。


 だが……それは将来の目標だな。今はとりあえず、みんなで協力して、お母さんの病気をなんとかしないと。ちょっと汗ばんだ右の掌を握りしめながら、私はそんな事を考えていた。


 ◇◇◇


 三月中旬。私は小学校の卒業式を迎えた。その日、姉のみのりちゃんは普通に学校であり、家族は誰も式には来なかったが別に寂しくはない。みのりちゃんもマナを生成出来る事が判って可能性がかなり広まった事もあり、私とみのりちゃんは一線を越えないギリギリのところでのトライアルを繰り返し、ようやくお母さんの病状を改善させる為のメドを付けたのだ!


 卒業証書を手に帰宅し、夕方お姉ちゃんも帰ってきたところで、ミュウちゃんと若葉ちゃんも集まった。私が予め作っておいたちらし寿司をみんなで食べながら、作戦会議をするのだ。


「それでは、作戦会議を始めます!」みのりちゃんが開会を宣言した。



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