第38話 バレンタインデー
結局、私の秘密はすべて姉のみのりちゃんが知るところとなった。だが、あの後、みのりちゃんからは具体的に突っ込んだ追及はされていないが、そんなものかも知れないな。
ミュウちゃんや若葉ちゃんは、血縁らしいとはいえ所詮他人だ。だがみのりちゃんは違う。本当にお互いが幼い頃から本当の姉弟としていっしょに暮してきており、いまさら弟の中身がニセモノでしたと言う事は、簡単に受け入れられないし信じたくもないだろう。なので私も、極力みのりちゃんを刺激しない様、普通の弟で居続け、やがて二月になった。
小学六年生も二月になると、関心はもう春から通う中学校の事が主になる。同じクラスでも、お受験で進学校を目指すものや、学区の違いから隣町の中学に行ってしまう友達もいる。現在、里中家は超緊縮財政下にあり、私は地元の公立中学一択だが、そこは若葉ちゃんやカツヤ君も通っており、陰キャで人見知りの私でもそれなりに何とかなりそうではある。
そしてもう一つ。
二月には、男女の一大イベント。バレンタインデーと言うものがある様で、これで小学校最後と言う事もあって、渡したい渡されたい男女はなんとなくソワソワしている。えっ、私? あー、ないない。関係ない。私自身が実体はアラフォーのおっさんな事もあってクラスの女子では全く萌えないし、普段からほとんど交流もないからチョコを貰う予定もない。でも、姉さんとお母さんだけは毎年チョコをくれるので、それで大満足なのだ。
案の上というか予定調和と言うか……二月十四日。私の机にも下駄箱にもそれらしき不審物はいっさいなく、そのまま帰宅したのだが、なんとミュウちゃんと若葉ちゃんが玄関先で待っていた。
「あれ。二人ともどうしたの?」
「えー。それはないでしょあきひろ君。せっかく君に手作りチョコ渡そうと思って、学校終わって急いで来たんだよ」そう言いながらミュウちゃんが綺麗にラッピングされたかなり大きな箱を渡してくれた。
「それじゃ、私も……」若葉ちゃんも、ミュウちゃんに負けないくらい可愛くて大きな箱だ。
「あ、ありがと二人とも。でも僕なんかでいいの?」
「何言ってんのよ。ぱんつに手を突っ込まれた仲じゃない!」若葉ちゃんがそう言って豪快に笑い、ミュウちゃんは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「それじゃ、遠慮なく。せっかくだから二人とも上がってお茶でも呑んで行ってよ」
◇◇◇
「それで、その後、みのりとはどう?」
居間でお茶をすすりながらミュウちゃんが尋ねる。
「どうって……あれからは何も。わざと今まで通りに振舞っている感じかな」
「そっか。まあすぐには納得出来ないよね。お父さんの事とかも、実際何が出来る訳でもないし……でも機会があったら、みのりとちゃんとマナ造る練習しておいたほうがいいよ」とんでもない事をミュウちゃんがさらっと言う。
「な、何とんでもない事言ってるんですか?」
「いやいや。もしお母さんの病気を根治させるんだとすると、私と若葉ちゃんだけじゃ足りなさそうなんでしょ? だったらせっかくネタバレしちゃっているんだから、みのりにも協力してもらった方が、マナも集めやすくない?」
「いや、それ。言う程簡単じゃないですから。だいたい一時的に大量にマナが発生しても、今の僕じゃそんなに長く溜めておけないし……」
それを聞いていた若葉ちゃんがボソッと話す。
「実の姉弟だとエッチもやりにくいだろうから、別にお姉さんに無理に協力してもらわなくてもいいでしょ。あき君が中学に入ったら、それこそ私とセ〇クスしちゃえばいんじゃね?」
「わー。若葉ちゃんそれまだ早いって!」私はあわてて否定する。
「そうそう。セ〇クスは十八歳になったらねー。私もそれまでは我慢してるんだぞ。でも……あと二年か。ぐへへ……」ミュウちゃんもだんだん壊れて来ている様な気がする。
「それにしてもみのり帰って来ないね。部活?」
「いいえ。今日は、お母さんの洗濯物の交換で、病院に寄ってから帰って来るって言ってましたけど……確かに遅いですね」
「じゃああき君。今から私とマナ造る練習しようか?」
若葉ちゃんがスカートの裾をちょっと持ち上げながら、意地悪く笑った。
その時、玄関の戸がガチャリと開いたのが判った。
「ただいまー」
「あっ。お姉ちゃん帰って来た」
「あれー。みんな集合してどうしたの? まさかまたマナ造ってたんじゃないわよね!?」
「いやいや、まだ未遂。じゃなくて、バレンタインデーだからさ。あきひろ君にチョコ持って来たんだよ。それで……はいこれ。みのりの分。義理チョコだよ!」ミュウちゃんが笑いながらリボンで綴じられた可愛い小袋をみのりちゃんに手渡した。
「ああ、お姉さん。私も義理チョコ」若葉ちゃんも小さな包みを差しだす。
「うわ。二人ともありがと……でも、あんまり私に気を使わなくていいからね」
「いや、別に気を使った訳じゃ……」うーん。若葉ちゃんはツンデレも似合うな。
「お姉ちゃん遅かったね。お母さん元気だった?」
「あ、うん。ちょっと注射の副作用で弱ってたけど元気だったよ……それで……」
「何かあったのお姉ちゃん?」
「うん……」
「あー、もしかして私達がいたら話しづらい事? だったら私と若葉ちゃんはここでお
「……でも、丁度いいかも。二人ともあき君と一緒に私の話を聞いて」
そして私達三人を前に、みのりちゃんが語りはじめた。
「お母さん。この間の感染騒ぎの後、ちょっとずつ浸潤が進んでるんだって」
「浸潤? それって、抗がん剤で押さえられるんじゃないの?」
私は思わずそう口にした。
「さすがあき君。白血病の事、一生懸命調べていたもんね。胃がんとかだと癌細胞は他の臓器なんかに転移するんだけど、白血病は血液のがんだから、隙があれば全身の組織の中にまで広がって行くんだって。それを抗がん剤の注射で押さえるんだけど、お母さんの体質的に今以上に強いお薬を使うのが難しいらしくて……」
「それが進むとどうなるのよ」ミュウちゃんが問う。
「一概には言えないけど、生存率がどんどん下がっちゃうのは間違いないかも。それに一旦進みだすと、年齢が若い程、急激に病状が進行するって……」
私の回答に、みのりちゃんも後の二人も悲痛な表情をした。
そしてしばらくの間。誰も声を発しない……。
「……それでねあき君。ミュウも若葉ちゃんも聞いて。お母さんの病気。あき君の魔法で何とか出来ないかな? ごめんね二人とも、他人なのにこんな話に巻き込んじゃって。でもね。私……なんとかしてお母さんに元気になって長生きしてもらいたいのよ。だからもちろん、そのマナって奴作るのに、私も協力する。だけど私だけじゃ足りないかもしれない。だから……」
「お姉ちゃん……」
「やろうよあきひろ君。この間だって霊安室で3Pエッチしてうまくいったじゃない。それにみのりが加われば4Pだよ! 大抵の事は何とか出来るんじゃない?」
「いえ、ミュウさん。そう簡単な足し算みたいには……でもそうですね。僕がためらってちゃ話にならないか。わかりました。お姉ちゃんを加えた4Pを前提にやり方を考えます。でも浸潤が進み出したんだとすると、そんなに猶予はないと思うんで……出来れば、僕が小学生のうちに決着をつける様にしたいですね!」
「おおっ、さっすが男の子だ。決断が早いや。それじゃあ、私達も頑張ろうね若葉ちゃん!」
「ミュウおばさん。なんか楽しそうだね。でもちょっと分かるわ。これでお姉さん公認であき君とエッチ出来るんだもんね。だからお姉さん。あなたもちゃんとあき君とマナ造る練習しなさいよね!」
若葉ちゃんの言葉に、みのりちゃんが顔を真っ赤にする。
「わ、分かってるわよ若葉ちゃん。私、昔あなたに言ったわよね。私が将来、あき君と結婚するんだって。それを今から実践してみせるわ!」
「ふん。強く出たわね。まあ、いざ本番って時に腰が引けない様、精々訓練する事ね」うーん。若葉ちゃんって時折、エッチの百戦錬磨みたいな物言いするよな。
だが私もしっかりしなくては。私がちゃんとお姉ちゃんをリードして……ふわっ、想像しただけで鼻血を吹きそうだ。これはやはり、お姉ちゃんとの練習は必須じゃなかろうか?
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