メロス、方向音痴だってよ 2

メロスはついにシラクスの都にたどり着いた。

が、どういうわけか、すでに三度目の訪問のような気がしてならなかった。


「…ここ来たことある気がする」


それもそのはず、昨日の夜にも都に来ていたのだが、宿を探すうちに逆方向に出てしまい、いつの間にか村へ帰りかけていたのである。

しかも、その間に「人質になる覚悟をしてくれ」と頼んだ親友セリヌンティウスの家を三度通り過ぎていたことに、本人はまだ気づいていなかった。


さて、城門の前。衛兵が声をかける。


「止まれ、名を名乗れ!」


「我が名はメロス!正義の使者である!王に会いに来た!」


「目的は?」


「暴虐の王に、信じる心を教えるためだ!」


衛兵は顔をしかめた。「…またお前か?」


「え?」


「三日前にも来たろう。翌日には市場で『城はどっちですか?』って百回くらい聞いてたぞ」


「そうだっけ?」


「しかも『友を人質にしてくれ』って叫びながら羊と一緒に宿に入って行ったぞ。あれは何だったんだ」


メロスは一瞬考え込み、やがて真顔で言った。


「…準備運動だ」


「は?」


「さあ通してくれ。今度こそ、本当に本当に、本気で怒ってるんだ!」


衛兵はあきれつつも通してくれた。

メロスは城内へと駆け出した。曲がり角を二つ過ぎたところで、いきなり止まる。


「…あれ?さっきここ通ったような?」


案の定、反対方向の廊下を走っていた。王の間は反対側である。だがそんなこと、メロスにはわからない。彼の方向感覚は地図を見てもなお、迷うレベルであった。


廊下をグルグル三周したあたりで、城の使用人らしき老婆が声をかけた。


「お兄さん、さっきからずっと同じところ走ってるよ」


「うむ、これは…王にプレッシャーを与える“走り込み作戦”なのだ!」


老婆は肩をすくめて言った。「王の間はあっち。階段をのぼってすぐだよ」


「感謝する!さあ行くぞメロス!信じる心を知らぬ王に、正義の一撃を──」


彼は勢いよく階段をのぼった。そして、間違えて屋上の倉庫に突入した。


「…ここはどこだッ!?」

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