方向音痴編(マジでそれだけ)
メロス、方向音痴だってよ 1
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。
メロスには政治がわからぬ。メロスは村の牧人である。笛を吹き、羊と戯れて暮して来た。けれども方向感覚が著しく乏しかった。
ある日、村の広場で噂を耳にした。「シラクスの王は人を信じぬ。信じられるのは自分の城の構造だけだと豪語しているらしい。」
「なにそれひどい。信じ合う心こそが人間の証ではないか!」とメロスは憤った。
だが彼は、王の城がどこにあるのかを知らなかった。というより、村の外れのパン屋にも辿り着けない男だった。
それでも、正義の怒りに燃えたメロスは旅立った。
「シラクスの都へ行く!」
そう言って彼は力強く歩き出した。
…が、十歩ほどで村の井戸に逆戻りしていた。
村人は言った。「メロス、逆方向だ。都は南だよ、南!」
「おお、すまんすまん!」と笑って再び出発。だが、二時間後に彼は山の上にいた。
「おかしいな、なんでこんなに涼しいんだ?」
「そりゃ標高が高いからさ!」と、偶然居合わせた旅人がツッコミを入れた。
そして──
道に迷いながら三日後、ようやく彼はシラクスの都の門を見つけた。だが門をくぐった瞬間、彼は言った。
「ここ…来たことある気がする」
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