8-4.


 


 ――梟たちが正門を突破する、数分前。


 裏門側に降ろされたみちるは、音と気配を殺して歩いている。

 

 正門側は静かだった。まだ、梟とアニエロは動き出していない。

 

 裏門には正門のように警備員はおらず、見張りを任されているのは、スーツ姿でサブマシンガンを携えた男が数人いるだけだった。


 敷地の角に当たる、正門と裏門どちらからも遠い位置の見張りは一人。煙草をふかしている。

 その男の背中をじっと見つめながら、みちるは近づいていく。

 男がもぞもぞとボトムスのポケットを探る。

 みちるの心拍数が一気に跳ね上がる。

 

 だが、男はスマートフォンを取り出しただけだった。

 届いたメッセージを読んでいるようだ。


 みちるは呼吸を整えるために、すぅ、と息を吸いこむ。

 そして、男の背後で銀色の光が煌めいた。

 

 男は突然、体当たりされたような衝撃を受け、それが何だったのか確認する間もなく、地面へうつ伏せに倒れた。

 

 みちるは、男の背中を刺したコンバットナイフを抜く。

 倒れた男の背中は、傷口から血が広がっていくのが目に入る。


 みちるは一度目を閉じ、また開ける。


 侵入にするにあたって、最小限の音で済ますには、と考えたみちるが出した答えが、これだ。


 みちるは、庭を囲むように張り巡らされた柵を手早く登り、庭に降りる。

 そのタイミングで、正門側から轟音と豪雨のような機関銃の音がした。

 音のした方に顔を向け、みちるは一瞬だけホッとした顔をする。

 

 みちるは物置の影に場所を取り、持ってきたL96A1のセッティングを始める。

 スコープは必要ない距離。引き金に指をかける前に、一度息を吐いた。

 轟音が聞こえているのに、どこか遠くに感じる。

 

 裏門や庭にいた見張りが、一斉に正門へ向けて駆けていく。

 駆け出していくのは、みちるが撃たなくていい。正門側で、梟とアニエロが対処してくれる。


 引き金を引くタイミングは、まだ先だ。

 

 肝心なのは、この状況でも裏門側から動かない見張り、そして屋敷内の『殿下』の部下たち。


 右肩にひんやりとした感触がした。

 新しく流れた血が包帯に滲み、それが風に冷やされたのだ。



 

 

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