7-4.


 アクセルを踏みしめ、幹線道路を目指すが、その後ろに、追っ手の車とバイクがぴったりついてくる。


 猛スピードで走る車列。

 その車体はどれも、窓ガラスがひび割れ、弾痕だらけだった。――みちるの車は特にひどい。

 

 通りすがりの車が、それを見て驚いたのか、時折停まる。

 中には、追われているのが「賞金首」だと気づいたのか、追跡する車に混ざるものもあった。


 闇雲に乱射される銃弾は、もはや敵味方の区別ない。

 みちるの車の真後ろについていた、追っ手同士の車が衝突し、炎上する。


 それを避けて、別の追っ手の車とオートバイが先頭になる。


 梟は、後部座席の窓から、並走しようとしたバイクのタイヤを撃つ。

 バイクは隣を走っていた車に衝突し、ぶつけられた車が、道を塞ぐ形で停車する。

 

 梟は停車した車のエンジンを狙って撃つ。

 銃弾がボンネットを貫通し、内部を破壊し、ガソリンが地面に滴り落ちる。

 さらに続けて撃った弾丸は、地面に広がった燃料に当たる。

 

 小さな火花が散った瞬間、揮発したガソリンが引火した。

 炎が一気に走り、車の下から火の手が上がる。


 みちるはルームミラー越しに後方を確認し、追っ手が減ったことを確かめた。

 

「お前、運転できたのか」

 追っ手の足止めができた、と判断した梟は、みちるに向かってぼそりと言う。


「私のは国際免許ではないので。オートマ限定だし」

 みちるはルームミラーで後ろを確認しながら、微かに笑った。

 

「オートマ?」

 聞き慣れない言葉に、梟が聞き返す。

 そういう種類があるんですよ、と言ってみちるは、そこで説明を切ってしまう。

 

 不意に訪れた沈黙。

 整備された幹線道路を走っていると、この車が至る所から異音を出しているのが聞き取れるようになる。

 ガタガタ、キィキィ、ギギギギ。

 BGMにしては、うるさすぎる。

 

 警察車両のサイレンと、救急車両のサイレンがいくつも重なって、近づいてくるのが聞こえてきていた。

 

 車のスピードが、突然、みるみるうちに落ちていく。梟は後部座席から運転席を覗き込んだ。

 

「あぁ……この車、もうダメそう」

 アクセルをいくら踏んでも加速しない車に、みちるは諦めたように笑った。

 みちるは顔を左右に動かし、脇道を探している。

 

 手入れされているようには見えない木々の立ち並ぶ細い道が、みちるの目に入る。

 みちるはハンドルを切り、その道へ進入した。

 その時点で、車は自転車並みの速度まで落ちている。

 

「むしろ、こんなボロボロで走っているのが奇跡だったんだ」

 梟は車内の天井やシートに残る弾痕や、飛び散った血を見て呟く。

 みちるが握るハンドルは、血で濡れている。負傷した右肩からの出血だ。

 車の異音は、ひどくなる一方だった。



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