7. Actions speak louder than words

7-1.


 地下室に立てこもって、約一日。

 アニエロが腰を痛めながら、地下室の扉前まで運んだ木箱は、アニエロがいなくなってから、梟が回収した。

 これらは、ボス・ヴェントーラから届いた荷物だ。つまり、武器の箱である。

 

 見た目は大きな木箱。それが四箱。

 蓋を外してみると、自動小銃、短機関銃と分類されるもの――いわゆる狙撃銃スナイパーライフル、アサルトライフル、サブマシンガン類が詰め込まれた箱が一つ。

 手榴弾や弾薬が詰め込まれた箱が一つ。

 機関銃マシンガンが詰め込まれた箱が一つ。

 なぜか酒十本と、チョコレート菓子の大袋がいくつも詰められた箱が一つ。


 地下室の運び込まれた箱を前に、サヴァンセとみちるは中身の確認に忙しかった。

「これは、イタリアのチョコのお菓子? かな?」

 みちるは銃器よりも、同梱されていたお菓子の方に気を取られている。パッケージの裏側を見て、中身に何が入っているのか、熱心に読んでいた。

 

「機関銃まで用意するとは」

 かたや梟は、機関銃を箱から持ち上げて、その硬質な輝きを確認していた。

 

「もしかして、これ、アニエロのじゃなーい?」

 箱に近寄ってきたジェシカと呼ばれる女は、箱の中身をじろじろ覗き込みながら、梟の言葉に返す。

 

「……アニエロの?」

「……アニエロが?」

 期せずして、みちると梟の声が重なった。

 

「うん。イタリアにいた頃、マフィア同士の抗争の時に機関銃で暴れすぎて、こんな僻地に飛ばされた、ってアニエロ本人が言ってた」

 ジェシカは機関銃を指差して、ケラケラと笑って言う。

 対照的に、梟とみちるは神妙な顔でお互いを見る。

 


 荷物の開封を済ませた後、みちるはアニエロを地下室に呼ぶ。

 現れたアニエロは、他の箱は一瞥するだけだったが、機関銃の箱の前に立つと、うれしそうに顔を綻ばせた。

「あぁー……いいねぇ」

 箱から持ち上げた機関銃の銃身を優しく撫で、隅から隅まで優しい眼差しで見つめていた。

 

「H&K HK23E……」

 手にした機関銃の名を愛おしそうに呼ぶ姿は、まるで恋人に接しているような空気すら漂っている。

 それを見たみちるは、ぼそりと呟く。

「……ホントに使ってたんだ」

「大好き」

 使っていた、いない、ではなく、「好き」。そう言い放つアニエロのうっとりした表情に、みちるは面食らっていた。

 

「やっぱり俺には拳銃ハンドガンよりも、お前だよ……」

 銃身へ話しかけるアニエロの姿に、みちるは言葉を失くして凍り付いている。

 みちるが武器商人だった育て親の手伝いをしていた頃、いろいろな取引相手に出会ってきた。だが、このタイプは初めてだった。

 

「……そういうもの?」

 隣にいる梟へ、困惑顔のみちるが尋ねる。

 梟は元狙撃手で、一番得意な武器は狙撃銃だ。拳銃ではない。

 同じように思っているのかと聞いたのだが、返ってきた答えはさらに拍子抜けするものだった。

 

「俺は、まともに使えるなら何でもいい」

「どちらも極端すぎる……」

 みちるは、機関銃を愛でる男と、使えるならなんでもいいと言う男を交互に眺めて髪を掻き上げる。


「ところで、ボス・ヴェントーラからの荷物に、アニエロ用の機関銃が?」

 みちるは機関銃を大事そうに抱くアニエロを、一歩下がって見守っている。

 

「いや、これは……あんたらに渡す荷物だから……俺のじゃない……」

 そう言ってアニエロは、手にしていた機関銃を、名残惜しそうな顔で、梟へ差し出す。

 

「あんたがこいつを、どうしても欲しいって言うなら……やるよ」

 差し出された機関銃を、梟は真顔で見つめた。

 アニエロは唇を噛み、梟が受け取るのを待っている。その顔は切なげで、悲しみすら滲んでいる。

 

「渡したくないって顔に書いてある」

 みちるはアニエロの顔を見て、そう言う。

 

「容赦なくもらっていくけどな」

「あぁっ!」

 梟は奪い取るような勢いで、アニエロの手から取る。アニエロが悲鳴にも似た声を上げた。

 

「大事に……大事にしてくれよな……」

 アニエロの態度には、まるで我が子を誰かに託す親のような、そんな湿っぽさがある。

 

「さっきから気持ち悪いな、お前」

 梟は露骨に嫌そうな顔をした。

 

「こらこら。もう少しやんわり言おうか」

 みちるが横から、苦笑いで注意する。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る