4-6.

 

         *

 


 タオルケットに身を包んだ少女を地下室に送り届けたみちるは、左手に拳銃ベレッタ92を持って、一階へ上がる。

 このビルは、外へ出ずに非常階段で全部のフロアを上っていける。

 階段のステップを踏むごとに、みちるの中で、気が沈むような高揚するような、複雑な感情が湧く。

 

 みちるが地下から一階に出たところ、非常階段の脇には、難しい顔をしたアニエロが腕を組んで立っていた。

 

 音も気配もなく階段を上がり、ふと顔を出したみちるを見たアニエロは、驚いたのか大袈裟なまでに仰け反る。

 「……っ!」

 アニエロは悲鳴を押し殺し、慌てて口を押さえた。

 

「アニエロは、なんでここに?」

 みちるは自身の唇に人差し指を当て、声を極力出さないようにと伝えながら尋ねる。

 

「『殿下』に追い出された。あんたの連れと『殿下』が仲良く喋ってるところだよ」

 アニエロは『殿下』と呼ぶ時、顔を顰める。

 そして非常階段のすぐそばにある個室を指差した。この店で一番いい部屋なのか、おそらく他の部屋に比べて広く造られている。

 

「会話が盛り上がらなそうな対面」

 みちるの感想があまりにもストレートすぎて、アニエロは吹き出し、すぐに手で口を覆った。


「アニエロ」

 みちるはアニエロの横を通り過ぎ、梟と『殿下』がいる部屋へ踏み出す前に、声を掛ける。

 

「私があの部屋に入ったら、ボス・ヴェントーラに連絡しておいて」

 それを聞いたアニエロが真顔になり、みちるを見つめる。

 

「どんな連絡?」

 アニエロの青い眼は、みちるの黒い眼を見る。光を湛える黒い眼は、強気にも見える。

 

「なんでもいいから、武器送ってきて、って」

 にこっと微笑むみちるに、

「……暴れるつもりしかねぇのな」

 アニエロは呆れた顔で笑うしかなかった。




 

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