4-5.

 

 


 インターフォンではなく、ノックの音がする。小刻みに繰り返されるリズム。――それは、みちるが慣れ親しんだノックの音だった。

 音がするたびに少女がビクッと肩を揺らす中、みちるは拳銃をしまい、ドアを開けた。

 

 そこに現れたのは、灰色の眼の男。

 先ほどのノックは、二人の中で成立する合図だ。だからみちるは拳銃をしまったのだ。

 

「悪いな。さっそく『殿下』がお出ましだ」

 梟は表情を変えず、焦った様子もなかった。

 

「いきなり? ここに?」

 むしろ驚いていたのは、みちるの方だった。

 

「店の奥で、アニエロが応対している」

「そんな雰囲気なかったのに」

 みちるが少女と話している間、階下でそんな物々しい事態が起きているなど、一瞬も感じていなかった。

 

「木を隠すには森の中、気配を隠すには雑踏の中」

 上手いことを言っているような、そうでもないような、不思議なたとえを出された。

 歓楽街の雑多な風景に、『殿下』は上手く溶け込んで姿を現したのだろうということだけは、なんとなく伝わってくる。

 

「お店の女の子たちは?」

 少女を気遣い、二人は玄関先で話している。声のボリュームは最小限まで落としている。

 

「とっくに地下へ避難させた」

 そう言いながら梟は、下を指差す。

 

「じゃ、あの子も地下に」

「彼女を地下に避難させたら、そのままお前は一階に来い」

 梟にそう言われたみちるは、苦笑いを浮かべた。その意図がわからず、梟は眉間に皺を寄せる。

 

「お店の女の子のフリして、地下にいたらダメ?」

 みちるの、どうせ本気でもないジョークに、梟は盛大な舌打ちをする。


「馬鹿言うな。すぐ一階へ来い」

 苛立った口調で言い捨てて、梟は階段を下りていく。その背中を見送りながら、みちるは深く息を吐いた。


 そしてすぐに、少女へと向き直り、地下へ送り出す準備をする。



 

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