2-4.


「サバちゃんお得意の、自分だけが知ってる情報を後から出してくるパターンだ!」

「うるせぇな」

 みちるが言う通り、梟は「知っている情報を必要になるまで共有しない」ところがある。

 そこを改めてツッコまれて、梟は顔を顰めた。

 

「昨日、ヤンの弟が入院している病院に行った時、いろいろなデータを見てきた」

 梟の話は、昨日の午前中にさかのぼる。ヤンの弟、オレクの入院先を訪ねた時の話だ。

 

「お見舞いにしては、やけに長いとは思ってましたけど……」

 その時、みちるは車の中で、一時間とはいかないが数十分、待っていた。


「データ管理室に入って、ヤンの弟・オレクのカルテだのも見てきたんだが、ついでに、手術室の使用記録も確認してきた」

「やっぱり。そういうことすると思ってた!」

 梟が病院に入っていってから、それなりの時間がかかっていたこと。

 戻ってきた時に、ヤンの弟・オレクの情報が、みちるの想像した以上に集まっていたこと。

 梟が語る内容は、みちるが薄っすらと考えていた可能性を裏付けるものだった。


「それにしても、データ管理室に入る、って……無茶苦茶な。むしろ、病院側のセキュリティが緩すぎて、ちょっと引くレベルなんですけど……」

「あぁ、その通りだ。この国随一の大規模病院だというのに、管理が杜撰で驚いた。あそこのスタッフは、サーバールームのドアを普通に半開きにしてたからな」

 みちるが顔を曇らせていると、梟は平然とその時の状況を補足してくる。

 みちるは梟の言葉を聞きながら、額に手を遣った。

 

「……それで今回は助かりましたけど、患者からしたら、たまったもんじゃないですよ」

 みちるが呆れた口調で返すと、梟は片眉を上げ、煙草の先を灰皿に押し付けた。


「それで、だ。病院側のセキュリティやリテラシーが杜撰なお陰で、手術オペ室の使用記録も、消されずに残っていた」

 手術室、と聞いたみちるの眼が、梟を見た。憂いと不安の混じった眼だった。

 

「過去一週間分の手術室の使用記録を、スマートフォンで撮影してきた。あいにく、フラッシュメモリを持っていなかったからな」

 梟は胸ポケットからスマートフォンを取り出す。

 

「そこまでした理由は?」

 みちるは、梟の手の中にあるスマートフォンに視線を移す。

 

「これを見ろ。同じ医師と同じ看護師チームが夜間手術に入っている記録が、やけに多い。それに、手術担当医の名前を調べてみたが、勤務医の中に名前がなかった」

 梟のスマートフォンは、画像を表示した状態でテーブルの上に置かれる。

 みちるはそれを覗き込んだ。

 

「……つまり?」

 みちるの眼に映る画像は、手術室の使用記録の中でも、夜間の記録だった。

 不定期に、しかし頻繁に、同じ名前の医師と看護師たちの名前が、一覧の中に出てきている。

 

「この医師と看護師チームは、臓器を取り出すために呼ばれた、外部の医師たちだと考えた方が筋が通る」

 梟の指先は、画面の中にある、その医師の名前を指している。

 

「一週間で、五回。うち一回はヤンくんだとしても、他に数人、臓器を取り出されている可能性がある」

 正確な人数はわからないが、この週はヤン以外の人物も、手術台に乗っていたのは確かだ。

 

「あの最新鋭の機器を取り揃えた病院は、『殿下』が臓器売買をやり易くするために、わざわざ建てたものかもしれない」

 梟が淡々と語る可能性は、みちるの胸の奥に、じんわりと嫌悪感を生む。

 

「……えぐい話」

 みちるは、梟のスマートフォンの画像を睨みつけて呟く。

 梟は、みちるの呟きに対して何も言わず、このホテルから見えない廃墟団地の方角に視線を向けた。


 煙草の煙が、二人の間をゆらりと流れていく。



 

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