1-7.
*
水族館。屋台街。美術館。
わざわざアニエロからおすすめスポットを聞かなくても、都市部は見るものが多く、暇しなかった。
結局、二人は夜の十時過ぎになる頃に、やっとホテルへ戻ってきた。
ホテルの駐車場は、街灯のオレンジ色の光でぼんやりと照らされていた。
遠くで聞こえる車のクラクションも、夜が深まるにつれて少なくなっている。
二人が乗ってきた車の後部座席には、多少の飲み物と食べ物を詰め込んだ買い物袋が置いてある。それを取ろうとしたみちるは、何かを見つけたようで、眼を凝らす。
屈み込むと、シートの足元をまさぐり始めた。
「……どうした」
運転席から降りていた梟は、なかなか車から降りようとしないみちるに声をかける。
「この工具、ヤンくんのだね」
みちるは買い物袋と、シートの下に潜り込んで見つけた工具を手に、車からやっと降りてくる。
「……今から行っても迷惑になる。明日、空港へ行く前にでも、返しに行った方がいいだろう」
みちるの手の中にある工具を見て、梟の脳裏に朝のヤンの顔が浮かぶ。
工具が入った鞄を大事そうに抱えて、後部座席に座っていた姿。弟が入院している病院を、少し寂しそうに見ていた横顔。
と同時に、この時間に、住民でもない自分たちがスラム街化している団地へ行くリスクを考えていた。
この時間、ヤンが寝ている可能性もあると考えたら、今行くのは悪手だと思った。
「……そうですね」
みちるは、使い込んであるが、しっかり手入れされている工具をまじまじと見つめながら、頷いた。
今日、ヤンと出会った場所近くを通りかかった時間帯に、またあの辺りを行けば、ヤンに会えるだろう。
「明日は、チョコレートを山盛り持って行ってやれ」
梟にそう言われたみちるは、眼を見開いて、固まった。
「そうじゃん! お礼のチョコ、まだ渡せてない!」
「気づくのが遅い」
「気づいてたなら言ってくださいよ!」
二人はそんな言い合いをしながら、駐車場から離れていった。
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