第5話

結局、俺はあれ以来山本とは話してなかった。


文化祭一日目は俺は一日店番だったし、山本は生徒会の仕事。



それに俺もなんとなく山本のこと避けてたし。




「伊達!頼んだ!」


イケメン決定戦から戻ってきた流星に黒いマントを渡される。



「あっ!おい、流星!」



野上のデカイ声が聞こえる。


「あいつ……。

伊達、流星が戻って来るまで、客寄せ頼むっ!」



走り去ってしまった野上。……流星、逃げたな。



「お、伊達がやってくれんのか?」



マントを持っていたら文化祭実行委員の奴に言われた。



「えっ?いや、ちが、」


「助かったー!

伊達ならかっこいいし、絶対客来るよ!


はい、これもつけて!

黙って座ってるだけで良いから!」



俺が戸惑ってるのも気にせず実行委員に八重歯を渡される。



「じゃっ!ペア、山本だから!」



笑顔で言われるが内心、焦る。



やまもと……?!


廊下に出るとホントに山本が座っていた。



「結局、四谷は捕まらなかったんだ」



俺の顔を見て少し笑う。



……ドキッ。……って、だからっ!


山本は諦めるんだってば!



「ちゃんと歯つけたんだ」


「……」



シカトした。

歯のせいで、もともと喋りにくいし。



客は結構、沢山入った。



「……あのさ、伊達、」


山本に呼ばれた時。



「山本、店番?」


「あ、竹沢。決定戦、お疲れ様」



竹沢丈が俺達の前に立つ。



「伊達は吸血鬼?似合うね、色白だし」



別に、嫌な奴じゃねーんだ。むしろ良い奴。

野上とかは普通に仲良いし。



「……あぁ」



でも、やっぱりなんか嫌だ。



「竹沢のクラスは何やってるの?」


山本が笑顔で聞いた。


「俺のクラスはタピオカ。今ビラ配り中。

良かったら、二人で来て」


竹沢が爽やかな笑顔と共にビラを渡してくる。



「じゃ、また」



手を振り立ち去る竹沢に俺はなんとも言えない気持ちになる。



「伊達、タピオカとか好き?」



山本はさっきから黙り込む俺に気を遣っている。それは分かってる。


でもだから、余計に嫌なんだよ。



「ねぇ、伊達、」



「ほう、ほっほへよ!」



「……は?」



着けていた歯のせいで叫んだ言葉が伝わらなかった。


俺は恥ずかしい気持ちを抑え歯を外して言った。



「もう、ほっとけよ、って言ったんだよ!俺に構うな!」



ほんと、こーゆー所も俺ってダメだよなぁ。

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