第5話

たーぬんが俺の隣に座る。


耕作とテルもゲームを終えて、レモンサワーとハイボールを飲みタバコに火をつけた。



「湯崎は父親が医者で、都内の一等地に住んでるんだ。もちろん実家暮らし。


お兄さんが二人いるんだけど、二人とも当たり前のように医者。湯崎自身の大学は緑唐」


「……りょくとー?頭いいんだっけ?」



俺たちは全員工業高校出身で、特に耕作は大学受験なんて視野にも入れてなかったから、あんまり大学の名前は詳しくない。



俺は今の仕事を始めて、周りの経歴とかを聞くようになったから少し詳しくなった。



「アナウンサーの辻穂乃花とか、インテリグラドルの加賀美芙羽ふうの出身大学だよ」


「え!めっちゃ可愛くて頭いい!!」



たーぬんの説明に耕作とテルは目を輝かせる。


たーぬんは金持ちの家の落ちこぼれって、いつも自虐してるから、多分知ってたんだと思う。



「じゃあ湯崎このみも可愛いんじゃね?!」



俺がスマホの写真を見せるとテルと耕作は画面を覗き込む。



「可愛いじゃん!

でも、子どもっぽいなー。エロさがない。矢木っちの彼女って感じではないな。な?テル?」



テルはしばらく湯崎の写真を見た後

苦笑しながら耕作の顔を見る。



「ああ。

あと、この子が身につけてるもの、全部ブランド品だ」



テルはアパレル店で働いてるからファッションに詳しい。



「矢木っち、もしかしてこの子、緑唐附属?」



たーぬんの質問に俺は頷く。


不思議そうな顔をする耕作に、たーぬんはしゃがんで説明する。



「えーと……。

……あ。二世女優の桑原カノンとか、美人すぎる政治家の棚坂悠里議員の出身」


「めちゃくちゃゴージャス!!

全員可愛い!綺麗!俺もこの学校行きたい!」



耕作の女好きはここまできたら何かに使えそうだよな。

つーか、たーぬんはなんでこんなに女性たちの経歴に詳しいんだよ。



耕作はネットで緑唐大を調べる。そして大きさに興奮している。


「え?!大学ってこんな感じなの?!」


「お前兄弟多いのに、知らねーのかよ」


「大学行ったの兄ちゃんだけだし、行く理由ねーじゃん!

うわでも行っておけば良かったー!可愛い女の子沢山いるんだよな!


つーか、テル行こうぜ!今度!」



テルは首を振る。そして、俺のことを見る。

耕作だけがキョトンとしてる。


俺も耕作みたいだったら、こんな気持ちになってないんだろうか。


黙る俺の気持ちを代弁するようにテルが耕作に説明する。



「エリート家系で、めちゃくちゃ金持ちで、頭も良い女の子と付き合うって考えたら、話合うのかなとか、それ以前になんか色々気にならねえ?」


「え?めっちゃサイコーじゃん。

新しいこと沢山しれるし、お金持ちになれるし。

なんて言うんだっけ。……タマノコシ?」



楽しそうな耕作に、たーぬんは目を見て説明する。



「耕作、『今日夜飲もうぜ』って誘った時に

超高級レストランに連れて行かれて、大きな声で喋れなかったり口説けなかったりするの

どう思う?」


「……え?」


「手を叩いて笑ったら怒られるし、ジーパン履いて行ったら帰されるし、スニーカー脱がされるよ」



「ええ?!いやだよ!

ハイボールとレモンサワー飲みながら、6杯目くらいで口説き始めて、酔っ払った勢いでホテル行きたい!」



たーぬんの説明に耕作は顔を青くして、俺に同情的な目を向ける。

……まあ、たーぬんの例えはちょっとやりすぎだけど要するにそういうことだ。



だって今日だって、二人でお酒飲むのはカップルだ、みたいなこと言ってた。


湯崎が特殊なのか、それが上品な考え方なのか、俺には分からない。


そもそも飲む店だって、どこに連れて行けば良いんだ。



「俺、今まで女の子と飲む時、普通のイタリアンバルとかで頑張ったなって思うよ」


「矢木っちはそういうセンスは良いから好きな店に連れて行けば良いんじゃね?


問題はその後、だろ。ホテル行けないぞ?絶対」



……こいつらの頭の中にはヤルことしかないのか?



「そもそも職場の後輩だからヤルとかは絶対にあり得ないんだよ。

俺の会社の社長が誰か知ってるだろ?」



俺の会社の社長は耕作の兄で、とにかく俺たちをコキ使うくせに、やたらとフェミニストのイケメンだ。


そんなことしたら俺の首があっという間に飛ばされる。



「ホテルも行けねーのに女と酒飲むの?

なんのため?金もったいなくね?」


「テルって本当に最低だよね」



たーぬんに同意。

俺は頭を抱えてため息をついた。



「うーん、でも、その湯崎ってヤツは矢木っちと自分が全然違うって知ってるのに、矢木っちのこと好きって言ってるんだろ?」



耕作は二本目のタバコに火をつける。

……全然違うって、分かってるのかなあ。



「なんかそういうのって、本当の金持ちはそもそも、あんまり気にせず生きてるイメージある」



俺の会社にも、ゆり華さんとか翔琉くんとか、めちゃくちゃ実家が裕福な人いるけど、みんな俺に優しいしそういうの気にしてるようには全く見えない。



「えー?そうかな?


つーか、それ含めてのデートじゃね?

試しに連れて行ってみれば良いじゃん。


で、無理なら無理で諦めるだろうし、それでも好きなら付き合うだろうし。


もったいねーよ!せっかく女の子に告られてるのに!


つーか、その子も可哀想だろ?

そんな理由で取り合ってもらえないなんて。


俺だったら嫌だけどな!」



耕作の言葉が胸に割と響いた。

たーぬんはうんうん、と頷く。



「俺はホテル行けないならマジで金勿体ないから行かなくて良いと思う」


「テルは女の子たちに火炙りにされちゃえ」



怖いことを言ったたーぬんをテルが慌てて宥める。


俺は頷いて、俺なりにお洒落な店を予約した。

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