想いが

第4話

俺の話を聞いた耕作がダーツを投げながら舌打ちする。



「なんでいっつも矢木っちってそんなにモテるわけ?!」



テルも俺の首に腕を回しながら結構な強さで締めてくる。

苦しそうにする俺に、たーぬんがハイボールを渡してきた。



「確かに矢木っちって昔からモテてた気がする」


「たーぬんもな!!


ちくしょー、なんだよ!

なんで毎日ナンパに明け暮れてる俺とテルがモテなくて、会社に行ってる矢木っちがモテるんだよ!」



……ナンパに明け暮れてるからモテないんじゃね?

と、思ったが面倒くさいので黙っていた。


たーぬんが高スコアを決めて、テルは悔しそうにして俺の首から腕を外した。



「たーぬんは許すよ。なんやかんやで一筋じゃん。

でも矢木っちはさ!普通に遊んでたよな?!」



テルの言葉に耕作は頷くが、たーぬんは首を傾げた。そして眉間に皺を寄せる。



「矢木っちは遊んでたというより……、言い寄られても断れなくて、気付いたら付き合ってた、みたいなことが多かった印象だけど……」



たーぬんはやっぱり分かってくれてる、すげー俺のことを分かってくれてる!!



「たーぬんの言う通り!俺は学生の頃、耕作やテルがナンパしてる横に居ただけだし、来た連絡に返してただけだし、誘われたら抱いてただけ!」


「いや最後のソレがダメなんだろ!!」



耕作は俺に向かってダーツを投げてこようとする。

たーぬんが静かにそれを止めた。


告白をまっすぐきちんとされたのは多分、人生で初めてな気がする。



「中学はまともに行ってなかったし、高校は男しかいねーし、その後すぐ土木系に就職したから、俺そもそも女の子のこと、よく分からないし。」


「告白されたことねーわけないだろ!彼女いたんだから!」



耕作は必死だ。何をそんなに必死になってるのかよく分からないけど。



「だからさっき、たーぬんが言ったろ。


『私たちって付き合ってるんだよね?』とか、『それって彼氏としてどうなの?!』とか言われて、あ、これ付き合ってたのかーってなるんだよ」



「そりゃ一回抱いてたらそうなるだろ!!女の子なめるな!かわいそう!お前みたいな男、……ああ!くそっ!


矢木っち優しいから好きになるの分かる!」



耕作は可愛いけど、全然モテない。

好きにならないのが不思議だ。


こんなにアホでいい奴なのに。



「まあ、そんで?

矢木っちはその子のこと好きなの?」



テルはハイボールをおかわりしながら聞く。

そして即答しない俺をつかんで揺らす。



「好きじゃない女に告白されるとか、男の憧れじゃねーかこの野郎!」



全然客のいない、さびれたダーツバーにテルの声が響いた。



「いや、好きじゃないって訳じゃないんだよ。

ただあまりにも育ってきた環境が違いすぎて、戸惑ってるんだ」



湯崎の笑顔が浮かぶときは正直何度かある。

あんなに素直に毎日のように告白されたら、意識しないわけない。



でも、普段の会話とか、未沙部長とのやりとりとか、持ち物とか、そういうの見てて、俺なんかが付き合うのは違うって気がしてしまう。

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