第39話

部屋が静かだから弥生ちゃんの声がすごく響く。



「わたし、結婚する」



私は小さく「えっ?!」と、声を上げてしまった。


「そうか」



玄兄の声がかすかに聞こえる。


「一応、玄は先輩だし。それだけ言いたかった。じゃ、またねっ」



そのまま、切れた電話を私に渡す。


「あっ、ごめん!電話、切っちゃった!」


「……今の話、ホント?」



私は携帯を受け取り目を瞬きさせて聞く。



「弥生ちゃん、結婚するの?」



弥生ちゃんは照れ臭そうに笑った。


「やっと、って感じ?

もう、どんだけ待ったか!」



交際四年かあ……。

ってことは大学一年から付き合っているのか?



「相手って、あのとおるくん?」



小学校の頃は一緒にお料理したりしたもんな。



「徹も仕事に慣れてきたし、私はまだ、就職したてだけど。

でも、結婚してからも仕事は続けたらって」



徹くんは弥生ちゃんの二つ年上。


玄兄とタメかな。……ってゆーか、確か玄兄が紹介した感じだったっけ?


正直、あまり興味なくて覚えてない。



「おめでとうっ、弥生ちゃん!」



私は心から嬉しかった。

でも、すこーし寂しいかな……。



もう、この部屋には来なくなっちゃうんだ……。



「あっ、そーだ!この参考書、あげるねっ!

私だと思って、大切に使って」



それだけ言って部屋を出ていく弥生ちゃんはもう大人になったんだね。


◇◆


学校に行くと晴海は既に席に着いていた。


「おはよー!ねっ、個人面談どーだった?」



晴海の面談はクラスで一番最後。

出席番号、後ろからだったからね。



「別に問題なかったよ。私、私立単願で行くし。内申足りてるから超、余裕だよ」



晴海のこうゆう現実的なところホントに尊敬する。



「私は蘭の応援に徹するよ。


弥生ちゃんが結婚してしまう今、支えられるのは私だけだしっ!」


「ありがとうっ、晴海!」



ちなみに晴海はとっても優秀です。



「でさ。私ね、良いこと思い付いたんだけど」


「なに?」



「福本先輩に、勉強見てもらえば?」


◇◆


「俺でよければ、力になるよ」


ゆきくんに掛け合うとすんなり、許可してくれた。



「じゃあ、たまに頼んだ時に見てくれるかな?!」


「蘭ちゃんの合格のためだもん。協力するに決まってるじゃん。


俺も、蘭ちゃんが桐高来るの楽しみにしてるよ」



……神様。


この言葉を胸に米倉蘭、この一年、死ぬ気で頑張りますっ!




「あ、蘭ちゃん久しぶりー」


「梶先輩!お久しぶりですっ!」


「秀ちゃんから聞いたよ。桐高来るんだってね。これ、あげる」



そう言って、なにやら単語カードを渡された。



「俺はこれで合格したからさ」



……秀、最近話してないけど……。

一応、私のこと気にしてくれてたんだな。




運動会も終わって七月の定期試験。


早めに取り組み始めたし、塾でも超勉強したし、弥生ちゃんの参考書や梶先輩の単語カード。


それに、ゆきくんからの優しい指導。


秀の、見えない計らい。



親や晴海の支えのおかげで、一学期の成績、

チラホラ2だった通知表がチラホラ4に生まれ変わった。




「米倉さん、頑張ったわね!


お母様、この成績なら桐高、十分に狙えますよ!」



夏休み前の三者面談でお母さんが私の肩を優しくなでる。


「頑張ろうね!」


そう言われて、大きく頷いた。


帰宅してからスズちゃんに急いで電話する。


「スズちゃんっ!私、桐高目指すからっ!」



「……そっかぁ!」



少し間があってスズちゃんが喜んでくれた。

でも、本当の勝負はここからです。



桐ヶ丘高校!マジで、待ってなさい!

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