第5話 通話後
電話を切った後、輝人は電車に乗り込み、窓の外に流れる景色をぼんやりと眺めていた。華乃と交わした会話の余韻が、まだ心に残っている。
「もっと話したい」――その一言が、今までの二人の関係を少し変えたような気がした。華乃の素直な気持ちに応えられたことが嬉しかったし、同時に少し照れくさかった。
電車が目的の駅に近づき、輝人はスマホを取り出して華乃にメッセージを送った。
「家に着いたらまた電話していい?」
送信してすぐに、既読がついた。少しして返信が届く。
「うん、待ってるね。」
短い言葉だったけれど、その一言だけで十分だった。輝人は思わず口元が緩むのを抑えられなかった。
家に着き、制服を脱ぎ捨ててリラックスした服に着替えると、輝人はすぐに華乃に電話をかけた。コール音が数回鳴った後、華乃の声が聞こえてくる。
「おかえり、輝人。」
「ただいま。華乃もお疲れ。」
当たり前の挨拶を交わすだけなのに、どうしてこんなにも嬉しいのだろう――そんなことを考えながら、輝人は自然と微笑んでいた。
「何してたの?」
「んー、輝人から電話来るの待ってた。」
「そっか……俺も早く声聞きたかった。」
ふいに出た自分の言葉に少し驚き、少し恥ずかしくなった。けれど、華乃の笑い声が電話越しに聞こえ、そんな恥ずかしさはすぐに消えていった。
「それでね、聞いてほしいことがあったんだ。」
華乃が少し真剣な声で切り出した。
「何?」
輝人も思わず姿勢を正す。
「これからもずっと、輝人とたくさん話したい。いろんなこと、共有したい。それだけじゃなくて……もっと一緒にいたいなって思うの。」
その言葉に、輝人の胸が温かくなった。自分が抱いていた気持ちを、華乃も同じように感じてくれている――そう思えるだけで、心が満たされる。
「俺も同じだよ、華乃。これからも、たくさん話そう。そして……もっと一緒にいよう。」
「うん。」
華乃の返事は短かったけれど、その声には確かな想いが込められていた。
二人の会話は、その後も途切れることなく続いた。今日学校であった出来事や、これからの週末の予定、そして何気ない冗談まで。何を話しても楽しくて、何を聞いても嬉しかった。
その夜、輝人は電話を切った後も、華乃の声が耳に残っているような感覚に包まれた。枕に顔を埋めながら、明日もまた彼女と話せることを思い、自然と眠りについた。
翌日――
朝、輝人が駅に向かって歩いていると、LINEの通知音が鳴った。スマホを取り出すと、また華乃からのメッセージが届いていた。
「おはよう、今日もいい一日になりそうだね。」
それを読んだ輝人は、すぐに返信する。
「おはよう、そうだね。今日もよろしく。」
二人のやり取りは、これからの日々が新しい色に染まっていくことを予感させた。輝人は胸の高鳴りを感じながら、駅へと向かう足を少しだけ速めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます