第3話 アリアは街を去る

 アリア・ナイトレイドはシャドウリッジのスラム街にある古いアパートの一室を訪ねた。

 白髪の老婆がアリアを出迎える。

 老婆はアリアのために紅茶をいれた。

「エリスさん、あなたの依頼は達成されましたわ」

 アリアは簡潔に報告する。

 老婆はしわの刻まれた手でアリアの白い手をにぎる。

 テーブルには新聞が置かれている。

 その一面にはジョージ・ヴァレンタイン殺害の記事がセンセーショナルに報じられていた。

「ありがとうありがとう。これで息子夫婦はうかばれます」

 老婆は涙した。

 老婆の息子夫婦は二つの組織の抗争に巻き込まれて殺された。それは犯罪都市シャドウリッジではありふれた出来事だった。

「本当にこんな金額で良いのでしょうか」

 エリスは封筒をアリアに差し出す。

 その封筒には現金で百ドルが入っていた。

「ええ、もちろん。これはあなたのこれからを生きるための大事なお金。依頼料としては十分ですわ」

 アリアは紅茶を飲み干し、そのアパートを後にした。

 百ドルが入った封筒をアリアは影に落とす。

 封筒はすっと影に吸い込まれていた。


 スラム街を一人歩くアリアに影が語りかける。

「あれだけ殺してこれっぽっちかい」

 その魔王の声はアリアにだけ聞こえるものだ。

「これだけあれば次の街に行けるわ」

 ふふっとアリアは微笑む。

 端から見れば美女が独り言を言っているだけに見える。

 スラム街を出て、アリアは地下鉄の駅に向かう。

 そこで聞き込みをしているエリオット警部の姿を見かけた。

 一つ微笑むとアリアは影に年齢を入れた。

 瞬時に美女は美少女となる。


 アリア・ナイトレイドは憤怒の魔王サタンと契約して自身の影にあらゆる物を隠すことができる。銃器などの武器だけでなく、年齢といったものまでその種類は問わない。

 年齢を影に隠すとアリアは若返ることができる。

 その代わり魔王との契約条件で絶対に嘘をつくことができない。



 黒髪の少女を見たエリオット・グレイ警部は声をかける。

「君、どこに行っていたのだ」

 エリオットはアリアの黒い瞳を見つめる。

 それは真実を見極めようとしているかのようだ。

「ジョージ・ヴァレンタインとその部下を殺したのよ」

 平然とアリアは言う。

「またそんな冗談を……」

 だが、とエリオットは思った。

 もしかしてこの美しい少女があの殺し屋アリア・ナイトレイドだとしたら。

 という思いがこの熟練の刑事の頭をよぎる。

「君……はもしかして……」

 途切れ途切れにエリオットは言う。

「うふふっ……私は殺し屋ですよ」

 アリアを捕まえようとするエリオットの右手をするりとかわし、彼女は駆け出した。

 瞬時に年齢を影から取り出して、アリアは大人になる。

 人混みの中にきえるアリアの背中がだんだん小さくなる。やがて、アリアは完全に姿を消した。エリオット警部は伝説の殺し屋を見逃してしまったのだった。


終わり

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アサシンガール アリア・ナイトレイドは全てを隠す 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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