あなたきれい

レンズを通して写る景色が好きだった。

画面の奥にあるいろんな形、それに準ずる様々な色彩は、現実のものよりも尚、鮮明に伝わってくる気がした。

何よりも、時間を切り取って遺せるという点が良い。自分の感性が美しいと思った風景やその瞬間を、ボタンを押すだけで絵にできてしまう。ーそして何より、現実よりもきれいになれる、それが私を虜にした。

自分の容姿に自信のなかった私は、「その」写真の中の自分が、まるで雑誌のモデルに見えたその時に、大きな衝撃と感銘を受けた。自分なんかでもキレイになれる、可愛くなれる。カメラは、そんな幸福に似た錯覚をもたらしてくれたのだ。

だから、私はカメラに生きようと思った。

まず、私の家は貧乏だったから、私の一日はバイトで埋め尽くされた。行きたい大学のために勉強も頑張ったし、反対する親とも毎日大喧嘩した。精神科に連れて行かれるほどに病んだ私は、当然、受験どころの状態ではなかった。

私は試験本番からわずか一ヶ月後に、死んだ。

死んだ私の葬式で飾られている写真は、私を呪い殺した、顔の部分が黒く爛れた写真だった。