ある骨拾いの独白

卯月 幾哉

骨は拾ってやるからさ

 やあやあ、お客さん。いらっしゃい。


 アッシは骨ひろい。そして、ケチな物書きさ。


 いまだ世間さまに広く認めてもらえちゃあいねえが、「いんたあねっと」の片隅かたすみでこっそり創作ばなしを書かせてもらっているのよ。


 ……え? 「いんたあねっと」って何だって? ……なんだ、知らねえのかよ。

 アレだよ、アレ。

 瓦版かわらばんの、でっかいやつだ。

 最近できただろ? って、最近でもねえか。……それぐらいは知っとこうぜ?


 いけねえ、話の骨が折れちまったな。あ、いや、この場合は腰か?


 ともかくだ。

 売れねえ話を売るにはコツがいる。

 コツ――つまり、骨さ。


 この世の中で、骨のねえ話ほどつまらねえものはねえからな。

 とはいえ、いちいちハナから骨を作るのは面倒だ。


 じゃあ、どうするかって?


 ――ひろうのよ。


 世の中、あるところにはあるものでなあ。

 なんと、ただで骨が手に入る場所があるのさ。


 ……場所の名前かい?

 ああ、教えてやるぜ。

 その名も「く、む」だ。


 ――え? カク◯ム?

 なんだい、そりゃあ。アッシは知らねえぜ。うそじゃねえって。


 そこにゃあ色んな骨があるぜ。

 人気にんきのある骨、ない骨、生きてる骨に、……死んだ骨。

 最後までつながってねえ骨なんてのもざらにある。


 ――死屍しし累々るいるい

 ……おいおい、お客さん。

 アッシは別に、そこまでは言っちゃいねえぜ。


 それで、そういった骨をつなぎ合わせて、そこに手前てめえの話を肉付けしていくのよ。

 そうしていくと……あら不思議! 全く新しい話ができましたとさ。


 ……まあ、そうは言っても、それなりに骨は折れるんだけどな。


 ――あん?

 「パクリ」だってえ?

 おいおいおい……。さすがにそいつは、ちょっと聞き捨てならねえな。


 アッシは、パクリには人一倍厳しいんだぜ。


 アッシが拾ってるのは、骨だけ。

 肉や皮は別物さ。

 外見そとみにはわかりゃしねえよ。

 んでもって、人様ひとさまの目にれるのは、当然外見そとみの方ってわけだ。


 だからよ。どっかでアッシの書いた話と、ガワがそっくりな話があったら教えてくれよ。

 おかみに言って、しょっぴいてもらうからよ。



 ……それで、お客さん。

 何か面白い話はないかい?


 あるだろう? ……とっておきのやつがよ。

 ここはひとつ、是非そいつを聞かせてくれよ。

 なんだったら、「く、む」の方に投げといてくれたら、アッシの方で見に行くぜ。


 なあに、人気にんきが出なくたって気にすんなよ。



 ――骨は拾ってやるからさ。




 アハハハハハハハッ! ……ハッ、ハァッ、はぁ……。






 ………………ああ、この話の骨は拾わなくっていいぜ?


 自分で拾えるからよ。




(了)

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ある骨拾いの独白 卯月 幾哉 @uduki-ikuya

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