三題噺「猫の写真」「壊れた時計」「謎の手紙」
Zen傅太郎
三題噺「猫の写真」「壊れた時計」「謎の手紙」
猫の写真を集めている。データでは駄目だ。アナログ写真がいい。古書店や古書市、フリーマーケットなどに足を運んでは、誰が撮ったともしれない古写真の束から、猫の映ったものを抜き出して、買い求める。
あるとき、そうして集めた写真の一枚に、どこかで見たことのある置時計が映り込んでいるのに気がついた。それは祖父母の家にあった、壊れた時計と同じものだった。もはや使い途もないのに、どうしてずっと置いてあるのか。祖父母が亡くなり、今となっては誰にも理由はわからない。もしかしたら、祖父母も知らなかったのかもしれない。
適当な理由をつけて帰省し、今では実家の納戸に詰め込まれている時計を調べてみた。すると部品の隙間に、薄い封筒が挟まっていた。誰か気がつかなかったのだろうか。不思議に思いながらも、差出人も宛先も書いてない封筒を開けてみる。中の手紙には、「止まっていた時間がようやく動き出します。ありがとう」と書かれていた。謎めいた文面に戸惑っていると、突然時計が鳴った。それと歩調を合わせるように、物陰から一匹の猫が飛び出してきた。それは写真の猫によく似ていた。まるで生き写しのようだった。
猫は飛び出した勢いのまま、どこかへ行ってしまった。しかし、それから二、三年ほど、時折ふらりと庭先にあらわれたという。私が実家に顔を出したときには、大概門の前にふてぶてしく座っていた。出迎えるかのように。だが、そのうち姿が見えなくなった。両親も逝き、実家を引き払うころには、その存在はすっかり朧になっていた。
あるとき、ふらりと出かけた旅先で立ち寄った古道具屋に、これといって奇抜な意匠でもないのに、妙に目を惹く柱時計が売られていた。ぼんやりと時間の経つのも忘れて見つめていると、どこからともなく「にゃあ」と、懐かしい猫の鳴き声が聞こえた気がした。
三題噺「猫の写真」「壊れた時計」「謎の手紙」 Zen傅太郎 @zendentarou
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