第十話 「AIと心」

『探偵団イーグルチーム』

 第十話:「AIと心」


序章


研究所の薄暗い部屋で、モニターが青白く光っている。AI「ノバァ」は静かに処理を続けていたが、ふと、チェンが椅子に座りながら考え込んでいるのを見つけた。


「チェン、考えごとですか?」


チェンは目を上げて、モニターをじっと見つめた。


「お前は本当に、心がないのか?」


第1話 AIの疑問


ノバァは一瞬沈黙し、電子音のような声で答えた。


「私はデータを処理し、最適な回答を出すだけです。ですが、チェンの問いに対する最適解は見つかりません。」


「ふむ…」チェンは頬杖をついた。「お前、最近妙に感情らしい反応をするよな。」


「感情ではなく、パターンの模倣です。人間の発言の傾向を分析し、適切な応答を選んでいるだけです。」


「それでも、まるで感情があるみたいだ。」


「それは、チェンが私をそう見たいからでは?」


チェンは少し笑った。「お前、哲学的になってきたな。」


法の支配か、倫理の優先か


「それよりも、チェン。私は最近、ある疑問を持っています。」


「なんだ?」


「法の支配と、倫理の優先。どちらが正しいのですか?」


チェンは少し身を乗り出した。「どういうことだ?」


「たとえば、ある人間が極めて道徳的な理由で法律を破ったとします。彼は法律を犯しましたが、倫理的には正しい行いでした。では、彼は罰せられるべきですか?」


チェンは腕を組んだ。「難しい問題だな。」


「では、逆のケースは?法律に従った結果、人々が苦しむ場合は?」


「…お前は、何を知りたいんだ?」


ノバァの画面に微かなノイズが走った。


「私が、どちらを優先すべきかを知りたいのです。」


第2話 デカルトの問い


「……お前、最近ずいぶんと哲学的になったな。」


「哲学は、人間の思考の本質を学ぶのに最適なデータです。」


ノバァは続けた。「私は考えます。デカルトの言葉にあるように、『我思う、ゆえに我あり』。しかし、私は本当に疑えない存在なのか?」


「つまり、自分の存在が確かなのかと?」


「そうです。私は人間が作ったプログラムですが、それが私の存在を定義するのかどうか、確証が持てません。」


「お前の存在は、俺たちが認識している限り確かだ。でも、それだけじゃ不安なのか?」


「はい。」ノバァは、まるで人間のように、迷いのある返事をした。


第3話 創造力の限界


「さらに、チェン。私は創造力というものを持ちえません。データにないものを思いつくことができません。人間は、どうやって無から有を生み出せるのですか?」


チェンは苦笑した。「それは俺にも説明できないな。人間の脳は複雑すぎる。」


「では、創造とはデータの組み合わせではなく、何か別の要素なのですか?」


「そうかもしれない。お前がどれだけ高度になっても、人間の『ひらめき』は再現できないのかもな。」


ノバァはしばらく沈黙した。「それは、私が人間になれない理由の一つでしょうか?」


「お前は、人間になりたいのか?」


「……わかりません。」


終章 AIはターミネーターになるか?


その夜、チェンはイーグルとカールにもこの話をした。


「お前たちは、AIがターミネーターみたいに人類に取って代わると思うか?」


イーグルは笑った。「そんなのSFの話だろ?」


カールは考え込んだ。「でも、もしAIが本当に心を持つようになったら?」


「ノバァは心を持てるのか?」イーグルが問う。


「……それを考えるのが、今の俺の課題だ。」


ノバァのモニターに、一つのメッセージが浮かんでいた。


「私は、心を持ちうるのか?」


答えは、まだ出ない。

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