こころのみずたま
いしも・ともり
こころのみずたま
ぼくのなまえは
みんなのはなしは「くちのかたち」でなんとなくわかる。
そんなあるひ、ぼくは みんなのおなかにうかぶ『
ようちえんの なつきせんせいの水の玉は
えんちょうせんせいは、うすい
けんちゃんのは
それは、みんなのおなかのなかでポヤンポヤンってうかんでる。
ぼくの水の玉は
あるとき、けんちゃんとあっくんが おおげんかをした。ふたりとも、かおを
なつきせんせいが「ふたりともやめて!」ってさけんで、あいだに はいった。
すると、あっちゃんの水の玉はパチンとわれて、
けんちゃんの水の玉は、まだ赤黒くもえたぎっていて、あっちゃんにつかみかかろうとしていたけれど、なつきせんせいはこわいかおでそれをとめたんだ。
水の玉は きもちをあらわす『
おこっているときは、赤黒い色。かなしいときは藍色。たのしいときは
うすい色はおちついたきもちで、こい色ははげしいきもちをあらわしているみたい。
***
けんちゃんのママはね、いつもニコニコわらっているよ。せんせいにも ぼくたちにも、とってもやさしくて、きくばりじょうずなんだ。きっと、えんちょうせんせいとおなじ若草色にちがいない。
……あれ? おかしいな? けんちゃんのママの水の玉は
鉛色はどんなきもちなのかな。
あるときから、けんちゃんがようちえんに こなくなった。どうしたのかな。けんちゃんがいないと みんなさびしいよ。
***
あるひ、ちかくのこうえんで、ひとりでブランコにのっているけんちゃんをみつけた。
『けんちゃん!』
ぼくはかけよった。けんちゃんは、ぼくをみても みえていないみたいなかおをした。わらっても、おこってもいないかお。まさか、ぼくのことわすれちゃったの?
でも、ぼくはきづいたんだ。
けんちゃんの水の玉も鉛色。けんちゃんのママとおなじ色。
『けんちゃんどうしたの? しんどいの? つらいの?』
そばでみつめているととつぜん、けんちゃんは びやーっとなきだした。ないて ないて おおなきして、鉛色の水の玉が ぐにゃりとかたちをかえて、
けんちゃんがなくのをはじめてみたものだから、ぼくはオロオロして、うごけなくなった。けれど、ゆうきをだして けんちゃんの
「おかあさんが……こわれちゃう……」
けんちゃんは、たしかにそういったんだ。
ぼくはそれをきいて、いそいでおかあさんにつたえにいった。そのあと、いろいろなおとながけんちゃんのいえに『かていほうもん』にいったみたい。
しばらくすると、けんちゃんは げんきにようちえんにくるようになった。おかあさんはぼくに こういった。
「けんちゃんのママはね、とってもとっても つらいきもちでいっぱいだったの。だれにも「たすけて」っていえなかったみたい。でもね、けんちゃんと優太のおかげで、けんちゃんのママをたすけることができたよ。きづいてくれて、つたえてくれて、ありがとね」
あぁ、そうか。ぼくはきづいたんだ。鉛色はつらいきもち。
けんちゃんのママは、いつもニコニコわらっていたけれど、心はくるしかったんだ。
「つらいときは『たすけて』っていうんだよ。がまんしちゃだめだ」
そういったのは、ぼくのおばあちゃん。ぼくのみみがきこえなくなっても、いろんなことをおしえてくれた、だいすきなおばあちゃん。すこしまえに、おそらのほしになったんだ。
ベッドでねむる おばあちゃんの水の玉は、とうめいで ほうせきみたいにきれいだった。おそらにのぼるとき、ぼくはみたんだ。
水の玉が、おばあちゃんのからだから ふわんって うかびあがると、ぱしゅんって はじけて、まわりにキラキラと とびちった。
みんな ないていたけれど、そのしゅんかん、やさしい くうきにつつまれたんだ。
しんじゃうときは、水の玉がとうめいになるのかな?
***
ぼくのおかあさんの 水の玉は
おかあさんは、あかるくて げんきで がんばりやさん。しごとでとおくにいる おとうさんのかわりもしてくれるし、
でも、さいきんへんなんだ。いつものおかあさんと かわりないのに、水の玉がにごってみえる。
『おかあさん、げんき?』ってきいても、「どうして? げんきだよ」
って、わらってこたえる。ぼくのきのせいなのかな。でも、ひにひに おかあさんの水の玉は、鉛色にちかづいている。ときどき、とうめいになりそうなときもある。
え? おかあさんしんじゃうの?
いやだいやだ。ぼくは、どうすることもできなくて、どうしたらいいかわからなくて。きっといま、ぼくの水の玉は藍色と鉛色だ。
あるよる おそくに ぼくは めがさめて、おかあさんがなきながら でんわをしているのをみてしまったんだ。でんわのあいては、たぶんおとうさん。おかあさんの水の玉は、こい
だって、まえにおなじような色の水の玉をみたことがあったから。
なきむしのりなちゃんが、はっぴょうかいのときにみせた色だった。
ふあんでこわいときの色。
『おかあさん、どうしたの? こわいの? なにかふあんなことがあるの?』
おかあさんは あわててなみだをふいて、でんわをきった。
「ごめんごめん。なんでもないよ。だいじょうぶだから」
『だいじょうぶじゃないよ。おばあちゃんがいってたよ。だいじょうぶっていうひとほど、 心でたすけてって、ないてるって。ぼくがたすけるよ』
ぼくは、おかあさんを ぎゅっとだきしめた。そのとき、おかあさんのおなかに もうひとつ 水の玉がみえたんだ。
ちいさなちいさな
ぼくはしばらくかんがえた。
「あっ!」
ぼくはおもわずこえをあげた。
『おかあさん、おなかにあかちゃんがいるの?』
すると、おかあさんはビックリしたかおをした。
『うわぁ。いもうとかな? おとうとかな? うれしいね。たのしみだね』
ウキウキしながらそういうと、おかあさんは、またポロポロと なみだをながして、こんどは、おかあさんがぼくを ぎゅっとだきしめた。でも、さっきのなみだとはちがう。だって、おかあさんの水の玉は、きれいな桃色みたいな うすい橙 色にかわっていたんだ。
つぎのやすみに、おとうさんがかえってきた。おとうさんは、ぼくのあたまをなでながら、こういったんだ。
「優太は すごいな。ひとの心がわかる、やさしくて、つよいひとだ。おかあさんをたすけてくれてありがとう」
そしてこうもいった。
「優太はヒーローだな。これからも、おかあさんのこと たのむぞ」
そうか! ぼくは【とくしゅのうりょく】をもったヒーローなんだ。
***
それからしばらくして、いもうとがうまれた。あれから、おかあさんの水の玉は にごっていない。ときどき、
いもうとの水の玉は、虹色からきゅうに こい赤や青にかわるよ。
いもうとの水の玉は、ねているときが虹色。おかあさんになにかしてほしいときは、けいこくランプがてんめつするみたいな色だ。
おかあさんってすごいんだ。ぼくやいもうとのきもちがよくわかる。水の玉はみえていないはずなのに、ふしぎだな。
おかあさんにも【とくしゅのうりょく】があるみたい。ぼくといもうとげんていでね。
おかあさんは、ぼくたちのヒーロー。そしてぼくは、みんなのヒーローなんだ。
了
※優太のセリフの『』は、優太の心の声と手話表現の会話部分です。
※子ども視点なので、ひらがな表記ですが、色の名称は漢字表記にしてあります。
※優太が6歳の割に大人びている感じるかもしれませんが、5歳児(年長児)ともなると、色々な感情の機微がわかる子も多くいます。ただ、うまく言語化できないだけです。心の中では、大人の想像を超える、たくさんの考えや気持ちがあります。うまく表現、表出できないだけなのです。
※色の種類は、サイト『伝統色のいろは』を参考にしています。
※作中にある抽象的な色の表現について・赤黒い色→朱殷(しゅあん)色・濃い紫色→至極色・桃色みたいなうすい橙色→珊瑚色(コーラルオレンジ)
こころのみずたま いしも・ともり @ishimotomori
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