第8話 箱根芦ノ湖のミステリー

 当真龍臣は、再び箱根を訪れていた。今回は、単なる観光ではなく、ある噂を確かめるためだ。芦ノ湖に、古くから伝わる水棲生物、ミズチが目撃されているという。

 深い霧が立ち込める早朝、当真は一人、芦ノ湖畔へと足を運んだ。静寂な湖面を眺めながら、彼はミズチの伝説に思いを馳せる。古くから、この湖には巨大な蛇のような怪物が棲み、人々を襲うという言い伝えがあった。

 ボートを借り、湖の中央へと漕ぎ出す。周囲は深い霧に包まれ、視界はほとんどない。静まり返った水面に、自分の息遣いが響き渡る。不気味な静けさに、当真の心は次第に焦燥感に駆られていく。

 突然、水面が大きく揺れ動き、ボートが大きく傾いた。当真は慌ててバランスを取ろうとするが、間に合わず湖に転落してしまう。冷たい湖水に体が包まれ、彼は思わず絶叫した。

 必死に水面に顔を出し、深呼吸をする。そして、視線を水中に向けた。すると、そこには想像を絶する光景が広がっていた。巨大な蛇のような生物が、悠々と水中を泳いでいる。その体は、光の加減で青黒く輝き、鋭い眼光が当真を捉えていた。

それは、まさにミズチだった。

 恐怖と興奮が入り混じり、当真は心臓が爆発しそうになるのを感じた。ミズチはゆっくりと当真に近づき、彼のすぐそばで姿を現した。その巨大な体からは、圧倒的な存在感が感じられた。

 しかし、ミズチは当真を攻撃する様子はない。むしろ、好奇心いっぱいの目で彼を観察しているようだった。当真は、この生物の知性を感じ、恐怖心よりも好奇心の方が大きくなっていた。

 しばらくの間、二人は対峙し続けた。そして、ミズチはゆっくりと深みに姿を消した。当真は、再びボートに乗り込み、岸へと戻った。

 この経験は、当真にとって忘れられないものとなった。彼は、ミズチの正体や、なぜ湖に現れたのか、その謎を解き明かしたいという強い衝動に駆られていた。

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