第9話 霊感少女

人形ごみの家。そう呼ばれるごみ屋敷があたしの住んでいる町にある。

住宅地の外れ、奥まった場所にある大きくて寂れた家屋。それを取り囲む広い庭に四つと、裏口の奥に一つの、人形とそのパーツからできたごみの山。

あたしがそれを初めて見たのは七歳のとき。入学式でできた友達についていったときに、長い階段の下にあるその家を見た。


あたしには霊感があって恐ろしいものが見えている。

それを知ったのも、あのときだった。


「家永、お前ちょっと薄情だぞ」

人形ごみの家のすぐ近くに住む仲の良かった子が熱で休んで、プリントを持って行ってほしいと先生に頼まれた。

あたしよりもっと近い子いますよね、と強引に断った。

「みっちゃんって偶にノリ悪いよね」

「ねー。なんか気持ち悪いくらい」

男の子たちと人形ごみの家に肝試しに行って、いくつかの人形にイタズラしてきたという話をされた。

気持ち悪いのはどっちだよ、その日で友達をやめた。

「家永さんって霊感あるってほんと? ちょっと見てほしいものがあるんだけど……」

人形ごみの家から人形を持ち出した翌日、消えた人形が残していったというペンダントを持って来られた。

やめてって言ったのに押し付けられそうになって、掴み合いの喧嘩になった。

なんでみんなそんなに馬鹿なの。どうして危ないってわからないの。

もうやだ。こんなとこに住んでいたくない。高校は絶対遠くに行く。あんな家の話絶対出ないような、遠くの賢い学校に行く。

ただその意志を頼りに勉強して、あたしは県外の私立高校に進んだ。


「家永さん、だよね」

「……なに? なんの用?」

「あのさ、初対面でこんなこと聞くのはどうなのってわかってるんだけどその……聞きたいことがあって……」

「さっさと言ってよ。暇じゃないんだけど」

「あ、ごめんね、なんか事情があったら申し訳ないんだけど……」



「わたし霊感があるの。クマの人形が家永さんの後ろずっとついて来てるんだけど、とても良くないものだからお祓いに行った方がいいかも……みたいな……」



その子は教室の後ろの方を指差したけど、あたしは、ゆっくり俯いて顔を上げなかった。冷や汗が首と背中に噴き出て、喉がきゅっと狭くなるのを感じた。脳裏にはあの日見たおぞましい庭と不気味な家の光景が浮かぶ。

遠くてわかるはずがない、笑顔、笑顔、笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔、あたしを見て笑う人形たちのひび割れた笑顔。

馬鹿、馬鹿女、ふざけないでよ。




九年も無視し続けてきたのに!

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