第8話 いじめ
手をつかまれた!
机の引き出しに手を入れた瞬間そう感じて、体が後ろに跳ねた。
一緒に倒れたイスに右半分背中を預ける体勢になる。机を見ると仄暗いその空洞には、黒ずんだ女の子向けの着せ替え人形が入っていた。
「おおっ! どうしたどうした! 机に何か入れてんのか〜?」
すぐに意地の悪い揶揄い声が聞こえてきた。あいつらだ。ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべて僕の前にやってくると、断りもなく机を漁った。
「おいおいなんだよこれ〜! 女子向けの人形なんか入ってる〜!」
指で摘むように引っ張り出したそれを、見せびらかすように掲げる。
「ヘンタイじゃんヘンタイ! きんも〜!」
大声で騒ぎ立てて、そいつらがクラスの中心になって、周りの声は小さくなる。
「それ、は……、お前ら、が、…………っ」
僕の声は、いつもどおり。
「え!? なに? これあのごみ屋敷から盗んできたの!?」
「マジ〜!? 絶対呪われてんじゃんコワ〜っ!」
「やっば! どんな神経してんだよ〜!」
「……っ! 僕じゃ……、う、く……」
言葉を出そうとしても喉が詰まったようになってできない。
「おい、それ持って遊んでみろよ」
「そうそう、いつもやってるみたいにさあ」
「ハハハッ! キモすぎてウケる〜!」
そんなことしない。
睨みつけて、歯を剥き出しにして威嚇する。言葉が出なくても、出ないなりに抵抗する。
だけどそれが面白いのか、さらに相手は勢いづいて、躊躇いもなく足を出す。
「ほら早くしろよ!」
「ほんとはやりたくてたまらないんだろヘンタイ!」
「お人形だいすきでちゅ〜って言ってみろよなあ!」
絶対しない。絶対しない。絶対しない。
貝になるように身を丸めて暴行に耐えていると、それはあいつらの体力の終わりとともに止む。
「おい見ろよ、こいつ人形のこと大事そうに抱っこしてるぞ!」
してない。
足の下に落ちている。目が腐ってるんじゃないのか。
「逃げろ逃げろ〜っ、人形に呪われる〜!」
馬鹿みたいな笑い声を上げながら逃げていく。
こんなこと、すぐ飽きるだろうと思っていたのに。あいつらの執拗な嫌がらせはもう半年近く続いている。
いつになったらやめるんだろう。死ぬまでやめないつもりなのか。
本当に、呪われて死ねばいいのに。
◇
[しねばいいのに!しねばいいのに!しねばいい!しねばいいのに!]
「ちが、う! ぅぶ、ぼ、ぼく、そん、って、言ってない、言ってない!!」
[ともだちのおねがいをかなえてあげるのがともだちでしょ?]
「が、う、ちがう、言ってない!言って、な」
[くちがなくてもおはなしできる きょうからともだち ぼくたちともだち!]
「う、うぅ、あ、ああ…… ごめ、ん、なさい、ご、めん、な、さ」
[あたしはちゃんところしてきたよ つぎはきみのばん おとことおんな きみがころすばん]
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