第10話 最後まで見ると死ぬ動画

〈人形ごみの家 前編〉


それが動画のタイトル。同じワードが「検索してはいけない言葉」の一つとしても知られている。

動画の内容は簡単な廃墟探索。長さは五分程度。撮影者はおそらく地元に住んでいる男性。昼間の様子と夜の様子を動画映えのするアングルで撮影した紹介パートのあと、敷地に踏み入る。音声は入っているが実況やナレーションはなし。

そこには無数の人形が山のように捨てられていて、カメラが少しズームするだけで腐食してグロテスクに爛れたゴム人形や、割れた内側に虫が棲みついた人形など、身の毛もよだつ映像が流れた。

撮影者はその庭の様子を人形を踏みつけながら一周して撮影。終始一言も喋らないが、吐息や溜息からその光景に恐れを抱いていることは窺える。動画の最後には深呼吸が聞こえ、カメラがすばやい動きで家の方に向けられる。後編はいよいよ家の中へ侵入することがわかる終わり方だ。

だがこの動画の後編はインターネットのどこを探しても見つからない。

削除されたのではなく、アップロードされていないというのが通説。

なぜ後編はアップされなかったのか。

それが、この動画が「検索してはいけない」と言われる本当の理由。

動画が気持ち悪くて見るに堪えないから、見ると気分を害するから、そんな理由ではなく。


「最後まで見ると死んでしまうから」


この場合の「最後」は存在しない後編の最後まで、だ。撮影者が編集段階で最後まで見て、その結果死亡したから、動画がアップロードされなかった……という論理である。

だがアップロードされていないのなら見れるはずもなし、心配いらないではないか。

そう思う人が大半だろう。

そこにネットの噂好きたちは様々な条件があるのだと提唱する。

たとえば、前編の動画を三回見ると後編の動画に飛ばされる、とか。

一回目の視聴のときに四体の市松人形と目が合うと画面が勝手に後編に切り替わる、とか。

誰もいない部屋で人形と一緒に動画を再生すると人形が動き出して後編の動画を見つけ出す、とか。

特に「動画の中の〇〇を〇体見つける」条件はいじりやすいようで、人形の種類の数だけバリエーションがある。中には「映り込んだ家の中の人影を三つ見つけると~」といった、実際には映っていないものを指定するものまで。

話が逸れたが要するに、ネット上では「特定の条件を知らず知らずに満たしてしまうと死の呪いを受ける動画だから、検索してはいけない」ということになっているのだ。



「わりとあるあるな設定ですねー」

「似たような都市伝説を聞いたことがありますなあ。たとえばー」

「うるさいうるさい。とにかく一時期そういうのが流行ったの。重要なのはこれを踏まえてあたしたちが、これから何をするのか、よ」

「ミヤちゃんそろそろ周辺だけど、どの辺停めればいい?」

「ここ右折してぐるっと回ったら長い階段の一番上に着くからそっちで」

「え、先輩まさかあたしたちが向かってるのって……」

「ふっふっふっふっふ……」

「嫌な予感がしますぞ……」




「あたしたちはこれからその人形ごみの家に侵入し、件の動画の後編を撮影します。それを自主製作映画って言ってネットに投稿して、再生産を繰り返すだけの停滞しきったホラー界隈に風穴を開けてやろうってわけ!!」


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