第十四話 きっかけ
予想どおりだった。
佐藤の拉致未遂の翌日、僕と総一は警察に呼び出され、昨晩の事情聴取を受けた。
朝早くから呼び出されて、根掘り葉掘り聞かれ、聴取が終わって、事務所に戻ってきたのが今だった。
時刻はすでにお昼を回っていた。
「結局、『
警察を一緒に出た総一が、横で不満そうに言った。
「まぁ、そうなるだろうとは思っていたさ。」
捜査の手が『
捕まった3人は、結局佐藤さんを拉致した理由を持ち金目当てで拉致したとしか語らなかったそうだ。
しかも、彼ら3人は今回の依頼までお互いに面識がなかったということ。
最近流行りの『すきまバイトアプリ』を通じて集められた人間たちだった。
『すきまバイトアプリ』の中にはそういう犯罪に加担させるような、俗に『闇バイト』と呼ばれるものが混ざっていたりするのだとか。
奴らによれば、『すきまバイトアプリ』で最初に請け負った仕事はただの面接のみ。
その面接だけで、ほかのバイトよりもはるかに高額な給料が支払われたらしい。
そして、これも『すきまバイトアプリ』の特徴らしいのだが、一度依頼を受けた人間の情報は依頼主に渡り、二度目からは直接仕事を依頼できるようになるのだとか。
今回もその流れで、仕事の紹介をされて、請け負ったらしい。
おそらく、最初の面接の段階で、こういう犯罪まがいの仕事ができる人間かどうかを選別し、こういう仕事を依頼できる人員リストを作っているのだろう。
いわば、捨て駒として扱える人材リスト。
そのリストから、今回はこの3人がたまたま選ばれただけ。
持っていた
使われていた車についても、盗難車だった。
依頼主として名前が記載されていた会社についても、業務実態のないペーパーカンパニーだったそうで、住所についてもでたらめ。
現時点では依頼主の正体は依然不明ということになっている。
結局、僕たちが調べて分かっている真の依頼主、『
「『
「恐らくそうなるだろうね。」
「ということは、しばらくは佐藤に張り付いておく方がいいのか?」
「そうなんだけど、佐藤の反応をみるために『
「ああ、そういやそうか・・・」
警察でさえ言及しなかった『
そうなると、助けられたという信頼よりも、不信感の方が上回ってくる。
「ただ、佐藤の反応で、重行さんが行方をくらませた理由は何となくつかめた。」
「えっ! それは本当か?」
総一が驚きの声を上げた。
「大島建設で横領事件が発生していることは教えただろう。あれの犯人はおそらく佐藤だ。」
「なぜそう思うんだ?」
「佐藤が拉致された時、彼はその理由を理解できていなかった。」
「確かにそうだな。」
「普通、自分の身が危険にさらされ、それを救ってくれた人物がいれば、その人物を信頼するものだろう。」
総一が僕の言葉に黙ってうなずく。
「ところが、その僕たちに佐藤にとってはそこまで重要ではないはずで、本来は事情を知っているはずの重行さんの行方を全く明かそうとしなかった。」
「それは、今現在で重行さんの行方を佐藤も把握していないからじゃ?」
「そう、今はね。ところが、彼は失踪した時点から行方を知らないと嘘をついた。」
「そういえば、そうだな。」
「すなわち、重行さんが失踪した理由を語ることは、彼の身に何か大きな不都合をもたらせる可能性があるということだ。」
「不都合?」
「横領事件の容疑者リストに、佐藤や重行さんの名前が上がっていた。」
「そういえば、そんなことも言っていたな。」
「会社が横領事件を内密に調査していることを、佐藤は何らかの方法で知ったのだろう。そして、その容疑者候補に、重行さんや自分の名前も出ていることも知っていた。」
「なるほど、『
僕は黙ってうなずいた。
「そこで、自分ではない誰かに、犯人という濡れ衣を着せようとしたんだと思う。」
「ひどいことを考える奴だな。」
「そこに入ってきたのが重行さんとの出張だった。おそらく出張中に横領事件の容疑者として重行さんが上がっていると伝えたんだ。」
「佐藤も容疑者候補に上がっているのに、重行さんだけが犯人だと伝えたってことか?」
「おそらくそうだろうね。そして、自分が何とかその濡れ衣を晴らすために、真犯人を見つけるからとか言って、しばらく行方をくらませるように進言した。」
「なぜ、身を隠すようにさせたんだ?」
「重行さんが犯人だという証拠を捏造するためだろうね。」
「なるほど、真面目な重行さんはその言葉を信じて、佐藤の協力を得て、プレハブ小屋に隠れたということか。」
「そして、重行さんが横領をするための理由付けとして、思いついたのが女性関係だった。」
「俺が話を聴いたときに言っていた、重行さんと『スナック翠』のママの話だな。」
「総一との話では、最初は全く知らないと言っていて、途中からその話が出たと聴いた時点で違和感があったんだ。」
「ということは、俺と話をしている時に、それを思いついたということか?」
「会社の資料を改ざんして、重行さんが横領していたという証拠を作ることはできたとしても、なぜお金が必要だったかという理由を作るのは難しいだろうからね。総一の話でそのことを思いついたんじゃないかと思う。」
「俺のせいかよ。」
総一が不貞腐れたようにつぶやいた。
「まぁ、そのおかげで馬淵と面識ができて、『
「それは、確かにそうだが・・・」
どこか納得しきれていない総一を放っておいて僕は言葉を続ける。
「そしてつぎに重行さんがプレハブ小屋から出て行った理由についてだ。」
「それももう分かっているのか?」
「うん。総一が扉の外で聴いた奴らの会話から推理したんだが、数日前に水死体がプレハブ小屋の近くで発見されたことを覚えているかい?」
「ああ、重行さんが殺害されたのかと思った奴だな。」
「おそらくそれが、重行さんが出て行った理由に関係していると思う。」
「どういうことだ?」
「水死体は足をロープで縛られていて、湖底の建造物に先が縛られていた・・・すなわち、他殺と見て間違いないだろう。」
「まぁ、おそらくそうだろうな。」
「その殺害現場が、プレハブ小屋の近くの湖上で、それを重行さんが偶然見てしまったとしたら? そして、それを相手に気づかれたとしたら?」
「次は自分が殺されるかもしれない・・・なるほど、それで逃げ出したのか。」
「おそらくそういうことだろう。そして、その殺害に関係していた人物こそが今回の佐藤の拉致を指示した首謀者だろう。」
「ということは『
「ただし、彼らは目撃者の顔さえも、分かってはいないと思う。」
「顔さえ・・・目撃者が重行さんだと分かっていないということか?」
「もし顔を分かっているなら、僕たちを尾行したり、佐藤を拉致する理由がないからね。」
「なるほど、確かにそうだな。」
「目撃者の顔が分からないから、プレハブ小屋を見張っていたんだろう。」
「なるほど、再び戻ってくるかもしれないからか。」
「そうだろうね。そしてその首謀者については、もう少し調べれば絞れると思う。」
「本当か?」
総一が僕の言葉を聴いて、目を丸くしている。
「今回殺害されたのが、ダム湖に沈んだ村の元村長の佐々木さんだった。『
「なるほど、20年前から『
僕の推理を一通り聞いて、総一は謎が解けたと嬉しそうである。
僕の推理にころころと表情を変える総一を見るのはなかなか面白いのだが、あまりにもその時の気持ちが顔に出すぎるきらいがある。
それは、この仕事をやっていく上で、あまり良いこととは言えない。
場合によっては、ポーカーフェイスを貫いて、相手にこちらの事情を知られないようにすることも必要なのだが、総一にそれを担わせるのは今はまだ無理だろう。
やはりしばらくの間は今の役割分担で進めるしかないだろう。
「そういえば、馬淵もあのプレハブ小屋にいたんだよな?」
「そうだね。馬淵も直接殺害に加担しているかは分からないけど、佐々木さん殺害現場にいたことは間違いない。」
「だったら、馬淵をひっつかまえて、尋問すればいいんじゃないのか?」
「そんなことをしたら、佐藤を拉致した奴らと同じで、下手をすると僕たちが犯罪者になってしまうよ。」
「そりゃそうか。」
「それに、彼に手をだした段階で、おそらく首謀者も黙ってはいないだろう。」
「それじゃ、馬淵はしばらく放っておくのか?」
「そうだね、現時点では放っておいても良いと思う。重行さんは犯行を目撃したけど、犯人たちは目撃者が重行さんだと分かっていないからね。」
「なるほど。」
「とりあえず、首謀者が誰なのかは調べるとして、先に解決するべきは横領事件の方だろうね。」
「横領事件の犯人は佐藤なんだろう?」
「僕の推理では佐藤で間違いはないんだけど、実際の物的証拠を手に入れていないから、彼を追い詰めるにはまだ調査が必要そうだ。」
「じゃぁ、やっぱり佐藤の行動を見張っておく必要があるってことか。」
「『
「確かに、同じ人物が連続で拉致未遂にあったら、警察も関連性があると思って調べるだろうな。」
「佐藤の方はしばらくは大丈夫だろうから、やはり重行さんの行方を追う方を優先しよう。」
「ということは、残っているプレハブ小屋の調査と、近隣のコンビニでの聞き込みということか。」
「そっちは総一の方で頼むよ。僕は大島建設のサーバーへアクセスして、横領されたお金の流れをもう少し調べてみよう。それと同時に、『
僕と総一は二手に分かれて、それぞれの調査を進めることにした。
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