第十二話 強硬手段
「わかった。すまないけど、引き続き、佐藤の監視をお願いできるかい。」
総一からの報告を聞いた僕は、次の指示を出して電話を切った。
やはり、重行さんの行方を知る協力者は、大島建設の佐藤だった。
しかし、現在は佐藤も重行さんの行方を把握できていないと推測される。
ただ、僕たちが知らない他の情報を持っていて、重行さんの行方を推測する方法があるかもしれない。
わざわざ会社にもどったのは、それを調べるためという可能性も考えられる。
もしくは、重行さんの方から協力者である佐藤に連絡を入れるということも考えられる。
そうなると、早急に佐藤に接触して、情報を聞き出す方が確実かもしれない。
ただ、重行さんが姿を隠している事情によっては、佐藤にいくら協力を要請しても、前回同様にはぐらかされるのがオチだろう。
どうやって、その事情を佐藤から聞き出すか。
事情を聴くことができれば、その元凶を取り除くことで、重行さんが自ら戻ってくる可能性もあり得る。
佐藤から事情が聞き出せない場合は、非現実的ではあるが、しらみつぶしのローラー作戦になるかもしれない。
まずは大島建設が20年前に作って放置している残りのプレハブ小屋を探し回る。
さらには、重行さんが姿を隠すための協力者がいない以上、食料の調達のために今よりも市街地に来る頻度は高くなるだろうから、目撃者も増えるかもしれない。
いずれも、かなり手間のかかる方法ではあるが・・・
あと、気がかりなのは、プレハブ小屋を監視していたのが『
会社の車を部外者である馬淵に貸して尾行させるぐらいなので、もしかすると結構上の方の人間かもしれない。
そして、『
『
すなわち、佐藤も『
ただし、プレハブ小屋を監視していて尾行を指示した人物は、佐藤のことはおそらく面識がないと思われる。
面識があるならば、わざわざ尾行を指示する必要はない。
そして、尾行していた人物が、佐藤のことを知っていたかどうか。
大島建設にはそれなりに多くの社員がいるはず。
『
となると、尾行の際に佐藤の写真を撮影していて、会社に戻って面識のある人物から情報を得ようと考えた可能性がある。
いや、もしかすると、佐藤を尾行していたのが、馬淵という可能性は残っている。
その場合は、馬淵は『スナック翠』で重行さんと一緒にいた佐藤と面識があるはず。
どちらの場合でも、佐藤個人が特定できれば、『
しかし、佐藤と面識がない場合は、プレハブ小屋を監視していた事情の重要度次第では、強硬手段に出る可能性が十分にある。
僕たちの尾行を失敗した程度で、馬淵の顔面を殴打するような人物だから、そういう荒事を平気でやると思う。
とすれば、万が一のために、やはり総一に佐藤を見張ってもらっておく方がいいだろう。
もう少し佐藤の情報を集めて、彼の弱みをつかんで、そこを攻めて重行さんの事情を聞き出す方がてっとり早いかもしれない。
僕は佐藤の情報を集めようと、再び大島建設のサーバーへアクセスするためにパソコンを起動する。
ちょうどその時、僕のスマートフォンの呼び出し音が鳴った。
画面を確認すると、電話の相手は総一だった。
指示してからあまり時間が経っていないことに少々不安を覚えつつ電話に出る。
「すまん、俊弥。佐藤を連れ去られた。」
バイクを走らせながら通話しているのか、エンジン音が声に重なって聞こえている。
「何があったんだ?」
「会社から出た佐藤を少し離れた位置で尾行していたんだが、突然黒い車がやってきて、そこから出てきた男たちに佐藤が連れ去られた。」
『
「今その車をバイクで追跡中だ。」
「車の中にいる人数は分かるかい。」
「後部座席の中央に佐藤が座らされていて、その左右に1人ずつ、それと運転手。助手席には誰もいないっぽいから奴らは3人だと思う。」
まさかこんなに早く行動に出るとは僕も思っていなかった。
よほど焦っている事情があるのかもしれない。
「どうする?」
「とりあず、彼らに気づかれないように車を尾行し続けてくれ。おそらくどこか目的地があると思う。その目的地が分かったら、場所を教えてくれるかい。僕もそこへ向かうから。」
「ということは、目的地がわかれば、俊弥に伝えて、俺は俊弥の到着を待っていればいいんだな。」
「それでいい。おそらく佐藤が彼らに殺されることはないと思う。ただ、万が一危なそうなら・・・3人を相手にできそうかい?」
学生時代に様々な格闘技を習得してきた総一であれば、3人相手でも立ち回れるのではないかと思って聞いてみた。
「相手次第ではあるが、こういうことをする連中だから、さすがに3人は少し厳しいかもな。」
確かに一般人相手なら、総一なら3人ぐらいは何とかなるだろうが、こういう荒事を請け負う人物である以上、ある程度腕に覚えがある者が含まれている可能性は高い。
「それなら、僕が間に合いそうになかったら、警察に電話して通話状態で状況が伝わるようにしつつ、突入して時間を稼いでくれ。」
「分かった、とりあえずその方向で動く。」
そういって、総一は通話を切った。
僕は急いでいつでも出られる準備を整える。
万が一のために、
僕は総一と違って、近接戦闘は苦手だが、高校時代にアーチェリーをやっていて、インターハイで個人の部で優勝経験がある程度には得意としている。
さすがに通常の矢だと、相手を殺傷してしまう可能性があるので、弾にはゴム弾を使えるようにしている。
これなら、当たり所がよほど悪くない限りは、相手を殺傷することなく無力化できる。
過去に何度か使ったことがあるが、実際に使わなくて済むのなら、それに越したことはない。
しかし、今回の相手は人を拉致するという犯罪行動を取る人物。
佐藤を拉致したのが、依頼を受けた反社会的勢力ということもあり得る。
そうなると、最悪の場合、拳銃を持っている可能性も・・・
だとすれば、これぐらいは最低限の用意として必要だろう。
もしかしたら、これでも対応しきれないかもしれない。
それにしても、こんなに早く強硬手段に出る理由は一体何なのか。
プレハブ小屋を監視していたのは、そこまで重要な理由だったのだろうか。
プレハブ小屋に何か秘密があるのだろうか?
それとも、そこにいた重行さんが目的なのだろうか?
もし重行さんだとしたら、重行さんが身を隠した理由は、もしかして『
そうなると、重行さんと『
どちらにしても、まずは捕まっている佐藤を救出するのが先決だろう。
その上で、佐藤と拉致した人間から、何等かの情報が入手できれば・・・
そこまで考えたところで、スマートフォンに総一からメッセージが到着し、拉致犯の目的地情報が届いた。
僕は用意していた
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