第二十七話 目的地を決めてやろう!
「これから何処に向かいましょうか」
グロルはそう言って、眉を下げて笑った。
行く宛のない旅だ。
何処に行こうと我が輩達の自由。
……ではあるが、流石に目的もなく歩くのは難しい。
「そうだな……」
と言いながら、我が輩は考えてみる。
行きたい場所などパッと思いつかなかった。
そもそも、我が輩は最近まで魔王城に引きこもっていた。
何処に何があるかすら知らないのだ。
行きたい場所など、思いつくはずもなかった。
「ま、魔王メプリを、討ちに行こう」
そう言ったのはコレールである。
魔王メプリを倒せるなら倒して貰いたい。
そして、ゆくゆくは真の魔王である我が輩を倒しに来て欲しい。
だが、今のコレール達ではメプリを倒すことなど、夢のまた夢だ。
ルザは四天王の中で最弱である【最弱王】だった。
だから、コレール達でも倒せたのだ。
しかし、正当なる四天王の一角である【生殺王】メプリは倒せない。
それどころか、対峙する前に瞬殺されるだろう。
メプリを倒せるまで成長してからなら構わないが、今直ぐにメプリを倒しに行くとなれば止めなくては……。
ボースハイトは長いため息をついた。
「まさかお前、魔王メプリさえいなくなれば国に帰れると思ってるの? たったそれだけの覚悟で国を出たなら、今すぐ国に帰りなよ」
「え、帰れないのか?」
我が輩がそう聞くと、ボースハイトは呆れた顔をした。
「当たり前だろ。僕達が『魔王を倒した』と言ったせいで、犠牲者が出た。その責任は取らないといけない」
魔王メプリを倒せなかったことの責任ではなく、犠牲が出てしまったことの責任。
それなら、のこのこ帰れないだろう。
犠牲が出た事実は変えられない。
「そんなこと、わかってるよ。ただ、本当の魔王を討てば、悲しむ人が少なくなると、思ったんだ」
「くすくす。勇者の子孫様は考えも立派だねえ」
「では、コレール様は何処に向かいたいですか?」
グロルが尋ねると、コレールはバツが悪そうに視線を逸らした。
「か、考えてない……」
「はあ?」
グロルは笑顔のまま、ドスの効いた声で言った。
コレールはびくり、と肩を飛び上がらせた。
「た、旅をしていれば、俺達は強くなると思う。だから、当面の間は魔物を倒すのが、目的になるのかな……」
コレールはところどころ区切りながらも、いつもより早口で弁明する。
「そうですか」とグロルがいつも通りのケットシー被りの声で言うと、コレールはほっとした。
「しかし、困りました。行き先が決まりませんね。ボース……ハイト様、何処かおすすめの場所はありませんか?」
「この先の町にあるカフェがおすすめ。絶品スイーツがあるんだ」
ボースハイトがスイーツを思い浮かべてうっとりとした顔をして、溢れ出るよだれを啜った。
そんな顔をするほど美味しいスイーツがあるのなら、一度食べてみたいものだ。
「グルメ旅ですか。それも楽しそうですね!」
グロルの良い反応にボースハイトは微笑んだ。
「でしょ」
「だ、ダメだ!」
コレールが二人にストップをかける。
「グルメ旅はお金がかかる! お金には、限りがある! ま、万が一のために、出来るだけ、使わないようにしよう!」
「旅してたら今ある金なんて直ぐなくなるよ」
「そ、それは、そうかも、しれないけど……」
ボースハイトが深くため息をつき、コレールの方を向く。
「文句言うならお前が何処行くか決めろよ」
「ぶ、ブレイヴ王国から、出たことないんだから、何処に行きたいとか、わからない……」
コレールはメプリを倒したい。
そのためには修行をしたい。
ボースハイトはグルメ旅がしたい。
しかし、金はなるべく使いたくない。
「平行線だな。一体どうしたものか……」
我が輩はバレットに目を向ける。
バレットは我が輩の意図を察し、スッと前に出た。
「でしたら、冒険者になったらどうですかな?」
「話を聞いてなかったのか。我が輩達は何処に行こうかという話をしていたのだぞ」
「ですから、冒険者になることを提案します。冒険者は、人々から出された様々な依頼をこなすことで、報酬が得られます」
「報酬……」
「平たく言えば、お金ですな」
バレットは親指と人差し指で丸を作る。
「依頼の中には魔物討伐もありますから、修行にもなるでしょう。コレールくんの修行、ボースハイトくんのグルメ旅の資金集め、どちらの目的も果たせますな」
ボースハイトが希望するグルメ旅の金銭問題が解決し、コレールの【生殺王】メプリを倒すための修行も兼ねられる。
「素晴らしい案だ」
我が輩は頷いた。
「では、冒険者になってやろうではないか」
「で、でも、俺達、討伐依頼が出されてるんだぞ。そもそも、冒険者の登録が、出来ないんじゃないか?」
「元いた国は出たぞ?」
「と、討伐依頼は、世界中に出されてる。国を出たのは、国内ほど顔が知れ渡ってないと、思ったからなんだよ。で、でも、ちゃ、ちゃんと確認されたら、冒険者の登録どころか、その場で討伐されるかも……」
「つまり、面が割れているから登録出来ないと。それを解決出来れば冒険者になれるのだな?」
「え? まあ、そう、なる、かな」
「では、我が輩が何とかしてやろう」
我が輩はどん、と胸を叩いた。
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