第二十八話 冒険者の登録をしてやろう!

 国を出て初めて、大きな町に到着した。

 我が輩達は早速、冒険者ギルドとやらに入った。

 冒険者の登録に必要な書類を書き、ギルドの受付係に提出を終え、審査が終わるまで暫く待たされた。

 その間、コレールはちらちらと受付のカウンターを見たり、周囲をうろうろしたり、落ち着かない様子だった。

 暫くして、我が輩達は受付係に呼び出された。


「ウィナ様、コレール・ムート様、ボースハイト様、グロル様。審査が終わりました。冒険者ライセンスを発行致します」


 受付係の言葉に、コレールは目をぱちくりさせた。


「本当に、本名で登録、出来た……」

「だから言っただろう。何とかしてやる、と」


 我が輩は信じてなかったのか、と少し呆れた。


「ま、魔法って、便利なんだな」

「知らなかったのか? 便利だからもっと使うが良い」


 冒険者の登録をする際、我が輩は受付係や審査員に魔法をかけた。

 認識を少しずらす魔法認識阻害だ。

 それだけで人間は簡単に騙される。

 現に、冒険者ギルドの受付係や審査員は、我が輩達の討伐依頼が出されていることを認識出来なかった。

 彼女らは我が輩達を「討伐依頼が出されてる人達に似てるような……?」ぐらいにしか認識出来ていないはずだ。


「こ、この魔法があれば、国を出なくて済んだんじゃ……?」

「会う人間、会う人間に《認識阻害》をかけていったらキリがないぞ? お前達は魔力も少ないしな。直ぐに魔力が切れて、バレるのが目に見えている」


 それに、これ以上、勇者学院ブレイヴの中で鍛えるのには、限界があると我が輩は思っていた。

 頼れるものも何もない過酷な旅など、修行にうってつけだ。

 三人は国を出る覚悟を自分で決めた。

 彼らはもっと成長出来ると、我が輩は確信している。


「こちらが冒険者ライセンスです」


 受付係が少し固い、小さめのカードを一人一人に提示した。

『ウィナ』と名前が彫られているカードが、我が輩の冒険者ライセンスらしい。

 名前の横に、少し崩した字で『F』と彫られている。


「冒険者ランクはFランクからスタートになります」

「冒険者ランク?」

「冒険者ランクは、冒険者としての熟練度を現しています。依頼をこなしていけば、冒険者ランクが上がりますよ」

「勇者学院を卒業していると、Dランクからスタート出来ます。ですが、皆様は卒業する前に学院を出たので、Fランクからですな」


 バレットがそう付け加える。


「そういえば、バレットは冒険者の登録をしなかったな」

「教員免許を取るのに、冒険者ランクが必要でしてな。登録は既にしてあるのです」


 バレットは自身の冒険者ライセンスを我が輩達に見せた。

 バレットの名前の横には、『C』と彫られている。

 いつの間に冒険者ランクをCランクにしていたのだ……。

 我が輩の世話で、冒険者なぞしてる暇はなかったはずだが。

 報告、連絡、相談くらいはちゃんとしてくれ。


「Cランクということは上から三番目の冒険者ランクなんだな」

「いえ、Aランクの上にSランク、SSランク、SSSランクがありますな」

「なんでAの次がSなのだ?」

「それは……何故でしょうな? 冒険者ギルドのお偉いさんに聞いて欲しいですな」


 偉い人間か……。

 人間の王をしているラウネンなら知ってるだろうか。 

 そう思いつつ、我が輩は自分の冒険者ライセンスを懐に入れた。

 他の三人も冒険者ライセンスを受け取り、服の中や、鞄の中に入れる。


「さ、早速、依頼を、受けに行こうか」


 コレールは大きな掲示板を指差した。

 横に『依頼書掲示板』という看板がかけられている。

 冒険者は依頼を受けて、依頼をこなしたら、報酬を受け取れる仕組みだ。

 掲示板に張り出されている依頼書を見て、自分に合った依頼を受けるらしい。

 我が輩は掲示板に近づいて、依頼書を吟味する。

 魔物の討伐依頼だけでなく、薬草採取や町の外での探し物、配達の依頼もある。

 無論、我が輩が受けるのは魔物の討伐依頼だ。


「お。トレントの討伐依頼があるぞ。今の貴様らなら楽に倒せる。肩慣らしには丁度良い。これを受けよう」

「あっ。すみません。説明を忘れていました」


 受付係が我が輩達に慌てて近づいてきた。


「規定として、冒険者ランク以下のランクの依頼しか受けられないことになっています。トレントの討伐依頼はDランクですので、受けられません」

「バレットはCランクだぞ」

「パーティの半数がDランク以上なら受けられるのですが……」


 Cランク一人に対して、Fランクが四人。

 面倒を見きれないということだろう。


「Fランクは依頼を五十件クリアすればランクが上がりますから、頑張って下さい」

「五十件!?」


 面倒だ。

 いや、魔物の討伐なら五十件など余裕だ。

 だが、トレント以下の魔物が相手だとやり応えがない。


「Fランクの依頼からコツコツやるしかありませんね」


 グロルがため息をついて、一枚の依頼書を手に取る。

 その依頼は薬草採取の依頼だった。


「まずは、薬草採取の依頼から始めましょう」

「我が輩は魔物討伐依頼を受けたい」

「Fランクの依頼に魔物討伐はないみたいですよ」

「………………」


 冒険者になんて、ならなければ良かった。

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