第二十五話 これからのことを決めてやろう!
凱旋パレードは続行不可能となった。
我が輩達は石を投げられながら、城の客間へと避難した。
石をぶつけられた際に出来た、グロルの額の傷の治療する。
それを終えると、部屋の中には重い空気が流れる。
「お、俺達、これから、どうなるんだろう……」
コレールがぽつりと呟く。
その問いに、誰も答えなかった。
静かな部屋の中にノックの音が響く。
誰も応答はしなかったが、勝手に扉が開かれる。
部屋に入って来たのはバレットだった。
「バレット先生……」
グロルが呟く。
何故バレットがここにいる? と疑問に思う間もなく、バレットの口からとんでもない話を聞かされた。
「明日、皆様の討伐依頼が出されることが決まりました」
「と、討伐依頼!?」
コレールが驚いて、音を立てながら立ち上がる。
「ど、どうしてですか!? 俺達は、ただ魔王ルザを──魔物のルザを、倒しただけなのに!」
「魔王が倒され、魔物は弱体化したと考えた人達が魔物に挑み、無惨にも殺されるという被害が各地で上がっているそうです。ラウネン陛下はそれらを重く見て、判断を下したのでしょうな」
「そ、そんな……」
コレールは信じられないと言うように首を横に振った。
「お、俺達は、魔族じゃないです! 信じて下さい! バレット先生!」
バレットはゆっくりと頷く。
「ええ、信じますとも。貴方達は魔物ルザを倒し、報告しただけのこと」
確かに、コレール達に非はない。
魔王の名前が間違っていたのも、魔王が倒されると魔物が弱体化すると嘘を教えたのも、コレール達ではないのだ。
責められるべくは、嘘を教えたフラットリーだ。
だが、民衆達がフラットリーを責めることはない……。
フラットリーは故人であり、偉人だ。
そいつを責めるより、コレール達を魔族だと決めつけた方が、民衆達にとって都合が良い。
「ら、ラウネン陛下にも、説明しなきゃ。俺達が、魔族じゃないってことを」
「止めておきなよ」
ボースハイトがコレールを止める。
「でも!」
「王様も僕達が魔族じゃないってことは十分理解してるよ。その上で討伐依頼を出そうとしてる」
コレールの何もわかっていない顔を見て、ボースハイトはため息をついた。
「王様は僕達に騙されたってことにしたいのさ。『自分は被害者です』『自分に非はありません』って被害者ぶっちゃえば、責任逃れ出来るからね」
「いえ、ラウネン陛下は悪くありません。陛下はこの国の王です。民衆の意見を無視出来ません」
グロルがラウネンを庇う。
ボースハイトはハッと鼻で笑った。
「どうでも良い。どっちにしろ、僕達は悪者になる」
コレールとグロルは下を向いて、黙り込んだ。
ボースハイトの言う通り、明日我が輩達の討伐依頼が出る。
今から何をしても、それがひっくり返ることはない。
これも全て、ラウネンの仕業だろう。
魔王が倒された事実をなかったことにするため、魔王はルザではなく、メプリであったと、フラットリー文書を改竄した。
あいつならそれが可能だ。
魔王がルザではなかったことで、我が輩達が悪者になってしまうのは、ラウネンも予想していたはず。
あいつが「何とかする」と言ったとき、意地の悪い顔をしていたのはこういうことだったか……。
「……で? どうするの?」
「ど、どうするって……」
「ここで自分の討伐依頼が出されるのを待つかって聞いてるんだよ」
強い語調でボースハイトが言う。
「僕は悪者扱いに慣れてるから良いけど、お前達は違うだろ」
「でも、討伐依頼を取り消す手立てはありませんよ……?」
グロルが泣きそうな顔で言う。
「なんでそっち方面に動くかな。もっと簡単なことだ。──この国を捨てるんだよ」
「く、国から出るってことですか!?」
ルザを倒したことで、我が輩達の顔はブレイヴ王国中に知れ渡っている。
討伐依頼が出されたら、この国にはいられない。
「国から出るなんて、簡単なことじゃ、ない。お、俺は、この国から出たことが、ないんだ」
「私もです。国の外で生きられるんでしょうか……」
コレールとグロルは直ぐに決断を出せないようだった。
住み慣れた土地を離れるのは、それなりの覚悟がいる。
それを聞いて、ボースハイトは声を弾ませた。
「ふうん。そうなんだ。僕はここに来る前まで色んなところを旅してたから、お前達以上に国の外のことを知ってる」
楽しそうに笑うボースハイトを見て、コレールは眉を顰めた。
「ひ、人の不幸がそんなに嬉しいのか?」
ボースハイトはため息をついた。
「……国の外のこと、僕が教えてあげても良いって言ってるの」
コレールとグロルは目をぱちくりさせて、ボースハイトの顔を見る。
ボースハイトは真顔になっていた。
こういうときのボースハイトは大体照れ隠しだ。
照れたことを隠すように表情を削ぎ落とす。
どうやら「お前達以上に国の外のことは知ってる」と言ったのは、「国の外を案内をしてやる」という意味だったらしい。
最初からそう言えば良いのに、回りくどい奴だ。
コレールとグロルもボースハイトの意図をようやく読み取れたらしく、二人で顔を見合わせた。
そして、覚悟を決めたような顔をして頷き合った。
「行きましょう。そもそも私には親がいませんから、この国に未練はありません」
「俺も、行くよ。どうせ、この国にいたら、人間に追われるんだ」
「それに」とコレールはへにゃりと笑う。
「みんなといたら、何とかなりそう、だし」
横でグロルがうんうんと頷いた。
「ウィナは?」
三人の目が我が輩に向けられる。
我が輩の答えは決まっている。
「無論だ」
三人はほっと息をついた。
「頼れる人がいない寂しい旅になるよ。それでも行く?」
ボースハイトは改めて皆に尋ねた。
「何言ってるんですか」
「俺達には、頼れる仲間がいる、だろ?」
「……誰のことだか」
ボースハイトの表情が消えたのを見て、我が輩達は笑った。
「さて」
とバレットが手を叩いた。
「腹は決まったようですな。そこで一つ、私から提案があるのですが」
バレットは胸に手を当てる。
「その旅、私も同行させて貰えませんかな?」
「え!?」
グロルが慌てて聞く。
「ど、どうしてですか? 先生は討伐依頼が出されないですよね? 私達についてきて先生に得はありませんよ……?」
「私は君達の先生です。生徒の君達を心配してはいけませんか?」
「いえ! そんなことはありません! 先生と一緒だと心強いです!」
グロルは羨望の眼差しをバレットに向ける。
「バレット先生は先生の鑑ですね……!」
喜んでいるところ悪いが、バレットはお前達を心配しているのではない。
我が輩のサポートをするためについてくるのだ。
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