第十三話 封印を解いてやろう!

 ティムバーの森、探索五日目。

 我が輩はそろそろこの探索の目的である、ティムバー洞窟を目指すことにした。

 ティムバー洞窟に置いてあるドックタグを、学院に持ち帰ることがこの探索の目的であった。

 我が輩達がティムバー洞窟を目指し始めて数十分、洞窟の入り口らしき場所を見つけた。

 洞窟の前には『ティムバー洞窟』と書かれた看板が立てられているから、直ぐにわかった。


「ここがティムバー洞窟か。目指したら意外と早く着くもんだな」

「最短一日で着くんだからね。普通は行って帰ってきて、五日もかからないんだからね」


 ボースハイトの恨み言詠唱を聞き流して、洞窟の内部に入る。

 内部は松明で照らされていて非常に明るい。

 急な坂道を下っていくと、直ぐに行き止まりに行き着いた。


「あっ」


 グロルが声を上げ、小走りで我が輩の前に出る。

 グロルが向かった先、横からせり出している洞窟の内壁に、数個のドックタグが置いてあった。

 グロルがドックタグを一つ手に取って、我が輩達に見せる。


「ドックタグゲット! ……はー。これで学院に帰れるぜ。待ってろよ、俺様のベッド~」


 グロルとボースハイトは踵を返して、入り口へと向かう。

 コレールもそれに続いた。


「……ふむ」


 我が輩は三人と逆方向に歩き出す。

 洞窟の奥、行き止まりの壁をまじまじと見つめた。


「うぃ、ウィナ? どうした? 早く帰ろう?」


 コレールが振り返って、我が輩に言う。


「まだ奥がある」


 我が輩はそう言ってコンコン、と洞窟の奥の壁を軽くノックする。

 すると、はらはらと壁が崩れていく。

 そして、奥へと続く道が現れた。


「嘘……」


 我が輩は洞窟の奥を覗き込んだ。

 松明で照らされている入り口側と違って、奥は真っ暗で何も見えない。

 地面には松明の灰が落ちている。

 元々道があったが、崩落して誰も立ち入らなくなったのだろう。


「よし。進むぞ」

「えっ」


 コレールが怯えた顔をし、グロルとボースハイトがうんざりした顔をした。


「あ、危ないぞ。魔物が、いるかも……」


 コレールが慌てて引き留める。


「だが、折角見つけた道だ。進まなければ損だろう」

「そ、損じゃない! 帰ろう!」

「その先に生き物はいなさそうだよ」


 ボースハイトが口を挟む。


「《思考傍受》で探ってみたけど、近くに僕達の他の心が聞こえない。魔物も、閉じ込められた人も、いないってこと。行っても無駄」


《思考傍受》は魔物、動物の心も読める。

 知性が低い思考は言語化出来ないから、ノイズにしか聞こえないが、索敵にも十分使える。

 まあ、《思考傍受》の索敵に引っかからない場合もあるが……。


「面白いものがあるぞ」

「そう言われて何回も道を逸れたけど、魔物にしか会わなかったよね?」


 ふむ、この手はもう使えないか。

 力尽くは好きだから、力尽くでも構わないが。


「まあ、魔物がいないなら良いんじゃね?」


 グロルが目を輝かせて言う。


「なんか秘密の通路ってわくわくするなあ。男心を擽るっつうかよお」

「グロルちゃんさあ……」

「ちょっとだけ! ちょっと覗くだけだから!」


 グロルがコレールとボースハイトの手を引く。

 コレールは「仕方ない」とため息をついた。

 ボースハイトは文句を言いながらもついてきた。


 我が輩達は坂道を更に下っていく。

 長い間塞がっていたせいか、酸素が薄い。

 魔法で生み出した酸素を利用し、炎で周囲を照らしながら進んでいく。


「ここ、何回か来てるけど、もっと奥があるなんて知らなかった」


 ボースハイトが言った。


「そうなのか? 魔力でわかりそうなものだが」

「魔力? なんで?」

「それは、この先に──ああ、ほらあった」


 少し進むと、拓けた場所に出た。

 かなり下っていたのか、天井が高い位置にある。

 中心には巨大なドラゴンの石像があり、かなり圧迫感がある。

 洞窟の内部で肩身が狭そうだ。


「こ、これ、ドラゴン……? 何で、こんなところに」

「死んでる?」


《思考傍受》で心を読めなかったから、ボースハイトはそう思ったのだろう。

 そう考えるのは悪くないが、魔力が感じられるということはまだ死んではいない。


「これは《封印》されているな。しかも、かなり念入りに」


 身体の自由だけでなく、思考も封じられているほど強い《封印》だ。

 だから、ボースハイトも《思考傍受》でドラゴンの存在を把握出来なかったのだろう。

 思考だけで魔法を使える者もいるから、それを警戒したのだろうが、一介のドラゴンにする《封印》ではないな。

 これは四天王に施すレベルの《封印》だ。


「ふ、《封印》ってことは、解ける可能性もあるってことか!? そ、それは不味いな。ここは、町に近い。もし《封印》が解けてしまったら……!」

「ああ。ただじゃ済まねーな。早く学院に戻って先生に報告を……」

「よし。《封印》を解いて戦うか」

「俺達の話聞いてた?」

「ティムバーの森での経験値稼ぎの成果を確かめる、絶好の機会だな?」


 グロルはため息をついた。


「《封印》解けたらヤベーって話してたの!」

「でももう解いてしまった」

「は?」


 ドラゴンを覆っていた石がパラパラと落ちていく。

 割れた箇所からドラゴンの強大な魔力が溢れ出す。

 自由になったドラゴンは雄叫びを上げる。


「お前ーっ! お前お前お前っー!」


 ボースハイトが顔を真っ赤にしながら我が輩の肩を掴んでガクガクと揺さぶる。

 その後ろで、コレールとグロルが顔を真っ青にしているのが見えた。


「何してんの!? マジ何してんの!? いい加減にしろよお前!」

「文句を言うのは構わんが、そろそろドラゴンの《封印》が完全に解けて襲ってくるぞ」


 ドラゴンを指差す。

 ドラゴンは身体の自由を一通り確認し終えると、こちらをギロリと睨みつけた。


「そら、構えろ。来るぞ」


 ドラゴンが我が輩達の足下に向かって炎を吐き出す。


「う、うわああああああああああ!」


 着弾した炎の爆風によって、我が輩達は吹き飛ばされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る