第十四話 ドラゴンを倒してやろう!

 我が輩は頭に被った砂を払い、周囲を見渡す。

 我が輩は咄嗟に《防御》したが、三人は自分で《防御》出来ただろうか。

 これぐらいで死んで貰っては困るのだが……。


「あっぶねー……。お前ら生きてるか?」


 グロルが砂煙の中から現れる。

 グロルは無事なようだ。


「し、し、死ぬ……!」

「死んだ」


 コレールとボースハイトも砂煙をかき分けて現れる。


「三人共、《防御》が間に合ったようだな。よしよし」


 我が輩は感心して頷いた。


「に、に、逃げよう! ドラゴンになんか、勝てっこない!」


 コレールが呼吸を荒くして言った。

 ボースハイトは冷静に言う。


「ここで僕達が逃げたら、誰がこいつの世話すると思う? 近くの町村に住んでる人間だよ? お前、仮にも勇者志願者なんでしょ。そんなことして良いの?」

「そ、それは……」


 コレールは視線を下に落とし、黙りこくった。

 コレールの煮え切らない態度に、ボースハイトは舌打ちをして、震えるコレールの襟を掴む。


「行くよ、臆病者」


 ボースハイトはコレールを引きずりながら、ドラゴンの方に向かっていく。

 それを見て、グロルはすかさず能力上昇魔法を二人にかける。

《攻撃力上昇》《防御力上昇》《回避率上昇》などなどを。

 今までは《回復》だけで魔力が尽きていたが、経験値稼ぎで魔力が増えたことにより、他の魔法も使える余裕が出来た。

 能力上昇魔法を活用し出すと、ぐんと戦いやすくなる。


「準備完了だ。気張れよ! コレール、ボース!」


 □


 三人はドラゴン相手に善戦した。

 ボースハイトは早急にドラゴンの弱点属性を探し出し、高威力の魔法をどんどん使っていった。

 グロルは回復する相手へ近づかなくとも《回復》を使えるようになった。

 魔力が増えたことにより、能力上昇魔法も積極的に使っていった。

 コレールに関してだが、魔法を使う気になったのは大きな成長だ。

 まだまだ付け焼き刃という感じだが、これから使える魔法を増やしていけば、彼は更に強くなるだろう。

 バレットにこいつらの成長を見せてやりたいものだ……。


 そう考えている内に、三人はドラゴンを倒した。

 ドラゴンの身体が光に変わり、三人の身体に吸い込まれていく。


「た、倒せた……?」


 グロルはその場にへたり込む。

 ドラゴンの光を見つめながら、三人は上がった息を落ち着かせている。


「ご苦労」


 我が輩がそう声をかける。


「本当に苦労した」


 ボースハイトは呆れたように言った。


「その分経験値は多いぞ」


 ドラゴンの経験値の光が三人に吸い込まれていく。

 その光の量は、トレントと比べものにならないくらい多い。

 これでまた、こいつらは強くなる。


「た、倒せたのは良いけど、これから帰って、時間、間に合うかな……」

「間に合わなくても、帰らないといけないだろ」


 今日はティムバーの森の探索を初めて五日目。

 学院側が定めたタイムリミットは今日だ。

 最短一日で着くのだから、走れば間に合うだろう。


「帰りは我が輩の《全回復》なしで行こう」


 我が輩の言葉に三人は呆れ果てた顔をする。


「魔王……」


 だから、魔王ではない。

 魔王だが。


 □


 日が傾いてきた頃、我が輩達は学院に無事到着した。

 学院の前でバレットが出迎えてくれる。


「お帰りなさい。随分と遅かったですな。君達で最後です」

「でしょうね」


 コレール、ボースハイト、グロルの三人は深いため息をついた。

 かなり疲れている様子だ。


「えー。お疲れのところ申し訳ないのですが、明日までにレポートを出して頂きますな」

「レポート?」

「感想とか気づいたこととか……何でも良いので書いて提出して下さいな」


 そう言って、バレットはそれぞれに用紙を手渡した。

 感想か、と我が輩は用紙に目をやる。

 そのとき、グロルが我が輩の服の裾を引っ張った。


「ウィナ様、洞窟でのことをバレット先生に報告しておくべきかと」

「洞窟でのこと……?」


 我が輩は首を捻る。


「ドラゴンがいたことです」

「ああ、その話か」


 我が輩はバレットに向き直る。


「バレットよ。ティムバー洞窟は更に奥があったぞ」

「はあ……奥が」

「気になったのでぶち抜いた」

「はあ……ぶち抜いて」

「そこにはドラゴンが《封印》されていたぞ」

「はあ……ドラゴンが」

「危ないから《封印》を解いて倒してきたぞ」

「はあ……倒して」

「いや、反応薄……」


 全く動じないバレットにボースハイトが突っ込む。


「にわかに信じられませんからな。あそこにドラゴンは生息していないですし、ドラゴンが《封印》されているという報告もありません。それとも、君達がドラゴンを倒したという証拠はありますかな?」


 ない。

 ドラゴンは倒したと同時に経験値になってしまった。


「行き止まりの先に奥があるのは、ティムバー洞窟を見てきたらわかる」

「はあ……。では一応見てきますが……。ドラゴンを倒したという証拠は見つからないと思いますな」


 バレットは我が輩の配下だ。

 我が輩の作った経験値システムのことは勿論知っている。

 魔物は倒されたら経験値となる。

 だから、「ドラゴンが倒された証拠は見つからない」と言ったのだろう。

 バレットにも見せたかったな、この三人の成長を。


「まあ、お疲れ様でした。今日のところは休んで下さいな」


 バレットに促され、その日、我が輩達は久々に自分のベッドで寝たのだった。

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