第2話 謁見
「さぁ、かっ飛ばすよ!」
スススズは脚を長く変形させて自転車を漕ぐ。
不本意ながら、オレは荷台からスススズにしがみつく形で乗っていた。
以前、スススズに首を180度後ろに曲げられてからというものの、自転車は少しトラウマだった。
今も当然かの如く、スススズはニヤニヤとこちらを見つめている。
「……危ないから前見たら?」
「ふふっ。虎徹くんももう15歳かと思うとなんだか嬉しくなっちゃって」
背筋にゾクリと冷たいものが走る。
この『嬉しい』は絶対ロクな意味じゃない。
あいつはまたオレに
「心配しなくても大丈夫だよ。虎徹君にはもう
「なら良かった――」
「だって、僕らはもう家族だからね!」
今朝見た悪夢の内容はきっとこんな感じだったんだろうなと、オレは虚ろな目で空を眺め、苦痛の時をやり過ごした。
*
「許さん。処す」
王の冷徹な声が玉座の間に響き渡る。
「王を1時間も待たせておいて、楽に死ねるだけありがたいと思え」
ジョーバンのジョフリー王は狭量で、些細な事でも処罰することで有名だった。
虎徹とスススズが額を石畳の床に押し付けること早15分。
王の怒りは未だ収まらず、それどころか沸々と湧き上がるばかりだった。
オレは横にいるスススズに王に聞かれないように話しかける。
「おい、スススズ。何とかしてくれるんじゃなかったのか!?」
「虎徹くんも本当は大丈夫だって分かってるでしょ」
お前みたいな邪神の考えが分かってたまるか。
オレは心の中でそう叫んだ。
「衛兵よ、この者たちを処刑台へ!」
ジョフリー王が一声掛けると、傍に控えていた衛兵らがすぐさま寄ってきてオレたちを拘束しようとする。
オレは抵抗虚しく縄を掛けられたが、スススズはそのブヨブヨボディで縄から抜け出し、王の元へと駆け出した。
「誰か、あの黄色いナメクジを捕らえよ!」
王は兵士に命じるが、スススズは見かけに寄らず、機敏な動きで兵士を躱す。
王の目の前には数人の兵士が立ちはだかっていたが、スススズは大きく飛び上がり、兵士たちの頭の上を通り過ぎた。
王は玉座から立ち上がり、腰の剣を抜いて身構えたが無意味だった。
「家族光線」
王は一瞬、身体をビクンと震わせた後、剣を床に落とし、膝をつく。
そして、今までにないような満面の笑みで両手を上げると、ただ一言だけ叫んだ。
「ファミリー!」
「ね、丸く収まったでしょ」
そんなわけ無いだろ、と思ったが、今スススズに逆らうとどんな酷い目に遭うか分からないため、オレは大人しく首を縦に振っておいた。
家族光線。
それはスススズ曰く、自分という存在を理解させるためのコミニュケーション術。
実際は、名状しがたい存在を認知させられ、気が触れてしまう――一種の洗脳だ。
普段オレたちが見ているスススズはまやかしで、実態はもっと恐ろしい目も潰れてしまうような醜い怪物なのだ。
たとえ、どんな悪人だろうと、スススズから家族光線を受けた者に対しては心底同情してしまう。
「ねぇ、王様。僕たち、旅に出るためのお金が欲しいんだけど」
正気を失ったジョフリー王にスススズは声を掛ける。
「こ、これはスススズ様!お金どころか、我が王家の宝まで根こそぎ差し上げますよ!」
あの傲慢だった王が、携えていた剣をスススズに差し出し、兵士らに金貨が大量に入った宝箱を運ばせている。
その事実は、耐え難い現実だった。
「やったね、虎徹くん!剣がもらえるらしいけど……どうする?」
「うーん、オレは刀の方が好きかな」
王家の剣何て貰ってしまったらこのご時世、人間にまで襲われてしまうかもしれない。
実際、刀のほうが好きなのもあって、ここは断ることにした。
「というわけで、刀を用意してくれるかな?」
「は、はいぃ〜……」
王様は情けない声で、宝物庫の方へと掛けていく。
本当に哀れだった。
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