虎徹・ジェングと黄色い悪魔
こいえす
第1話 目覚め
斬る、斬る、斬る。
襲い来る魔物を次々と薙ぎ倒しながら魔王城を目指す。
真っ黒な太陽が照らす焦土のような大地を、ただひたすら歩き続ける。
ふと顔を上げると、目の前には銀色の液体が噴き出す漆黒の火山がそびえ立っていた。
その表面には、黒くぎらついた油のような塊――恐らくスライムがそこら中びっしりと貼り付いていた。
スライムたちはこちらに気付いたのか、ボコボコと激しく泡立ちながら、迫って来る。
近くにいた一匹が勢い良く飛び上がり、オレの顔めがけて落下する。
先程魔物を倒した時と同じように、相手の動きに合わせて一太刀を浴びせ、真っ二つに切り裂いた――はずだった。
奇妙な感覚が手元に伝わる。
手応えがまるでない……それどころか、刀がずっしり重くなった感じがする。
驚いて刀を見ると、スライムがまとわり付いていた。
スライムは粘着質で、いくら振り回しても剝がれるどころか、どんどんと刀を侵食し、鉛のように重くなっていく。
仕方がないので、オレは刀を引きずりながら、火山を登ることにした。
スライムたちの攻撃を避けながら進むものの、避けたスライムが次から次へと刀に絡みつき、どんどんと重くなっていく。
中腹に差し掛かる頃には、刀はもはや持ち上げられないほどの重さになっていた。
……オレは諦めて刀を置いていくことにした。
次の瞬間、脚にじっとりと異物感のある濡れたような感触が広がる。
いつの間にか、オレの脚にもスライムがまとわり付いていたのだ。
脚が重くなる。
どんどん動きが鈍っていく。
それでもオレは、四つん這いになりながら、必死に山頂を目指した。
スライムの攻撃が避けられず、オレの身体はどんどん覆われていく。
腰を、腹を、胸を、首を――そして、頭を。
最後に視界が奪われ、全身が飲み込まれた瞬間――オレの意識もまた、完全に闇の中に飲み込まれた。
*
今日は、虎徹が15歳になる誕生日だった。
「起きなさい、起きなさい、僕の可愛い虎徹くん」
オレが目を覚ますと、目の前には黄色のぶくぶくに膨れ上がったマスコットのような見た目の邪神が、布団越しに跨っていた。
……何だか、嫌な夢を見た気がする。
夢の内容は思い出せないが、寝覚めは最悪だった。
下半身が濡れているかのような感覚を覚えるが、幸いにも漏らしたわけではないようだ。
「何だよスススズ、普段は起こさないくせに。今朝は酷い悪夢を見たんだ、もう少し寝かせてくれよ」
「ダメだよ。今日は王様に会いに行く日でしょう。僕は君を立派に育てたつもりだよ。バックレるなんて許さないよ!」
スススズは鼻息を荒げ、青紫色のヒレのような耳をピョコピョコと上下に動かす。
しょうがない、起きるか。
オレは横に置いてある目覚まし時計を見るや否や、どんどん血の気が引いていった。
「ス、スススズ。王様との謁見って、何時からだっけ」
「んー、確か9時だったはず」
「……今は何時だと思う?」
スススズはベッドから首を伸ばして、時計を見た。
そして、ゆっくりとこちらの方を向く。
「えへ」
「えへじゃねえよ!もう10時だよ!遅刻だよ!」
「ごめんごめん、昨日虎徹くんの勇者就任祝いで飲み明かしてたから」
スススズは頭を軽く叩くと、ウィンクしながら舌を軽く覗かせた。
普段寛大なオレでもスススズには時々イラッとする。
だが、今回の件はスススズに非がない。
オレが寝坊したのが悪い。
でも――
「起こすにしても、もっと早く起こしてくれよ!」
「ごめんって。その代わり、僕が何とか怒られないようにしてあげるからさ」
「頼むよ、全く」
ついつい、スススズに甘えてしまう自分がいた――。
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