第2話

「あら、りょうちゃんおかえり。」

その日、にわか雨に襲われながらバイトから帰宅すると珍しくおかんの声が聞こえた。

「ただいま。」

俺がボソリとつぶやくように発したその声と重なるように風呂場の方から「誰ですか?」という女の声が聞こえた。

嫌な予感がした。

おかんは俺に断りもしないで知らない人をよく家に転がり込ませていたから、そういうのには慣れていたが、だいたい転がり込んでくるのはろくでもない奴が多かった。

「息子よ、息子。りょうや。」

「ああ。」

「誰?」

俺がそう聞こうとした瞬間、脱衣場から薄いピンク色のキャミソールとショートパンツ姿の女が濡れた短めの髪を白いバスタオルで拭きながら顔を出した。

「ひろこさん、ドライヤーどこ?」

「あ、洗面台の下の扉開けてみて、あるはずだから。」

「はーい、ありがと。」

そう言うと、女は何も言わずチラリと俺に視線だけ向けた。

無表情ではなかったが、笑ってもいなかった。

「あ、ごめんね。言ってなかったけど、今日からうちにしばらくいることになったの。れいあちゃんね。お母さんがお昼働いてる会社の事務所のバイトの子でね、事情はよく知らないんだけど帰る家がなくなっちゃったからって、最近ずっと事務所で寝泊まりしてたから、だったらうちに来たらって・・・。」

「来たら・・・って、おかしいでしょ。そんないきなりなことされても困るんだけど。俺、男だし。気まずいじゃん。」

「でもかわいそうでしょ?寝る家がないなんて。」

「そういう問題じゃないっしょ。はぁ・・・。」

「怒った?」

「怒ったっていうより呆れた。いいよ。猫がもう1匹きたと思う。」

もう何言ってもどうこうできるわけでもないし、俺は仕方なく適当にやり過ごそうと決めた。

そんな俺におかんはトドメを刺してきた。

「猫じゃないわよ。神様なのよ、あの子。」

冗談っぽくそう言って、笑った。

「神様・・・。」

その言葉を聞いて俺はすっかり忘れてしまっていた記憶が蘇ってきた。昼休みに観た動画だ。宗教勧誘にあった女が自分のことを神だと言ってたあの動画。もうタイトルすら忘れてしまったから検索しようにも「女」、「宗教勧誘」、「神」と並べるしかなかった。スマホの画面に出てくるのは、怪しい宗教勧誘とか、超かわいい女の子が宗教勧誘に来たとか、そんな類のものばかりで、神を名乗る女の動画や記事は見つからなかった。ま、どうでもいっか。

「じゃあ、お母さん仕事の準備しなきゃだから、れいあちゃんと仲良くするのよ。ああそれと、れいあちゃん明日からりょうちゃんの学校に編入するらしいから、ちゃんと学校のことも教えてあげるのよ。」

そう言うとおかんは立ち上がり、テーブルの上にあった2人分のお皿とマグカップを流し台に置いてから脱衣場に向かった。

それと入れ替わる形で、髪を乾かし終わったれいあと呼ばれるその女はやかんに水を入れそれを火にかけてから、何事もないかのように母が座っていた椅子に腰を掛けた。


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