第6話 土曜の深夜

夜も更けた頃、七瀬紗月は酔い覚ましの冷たい夜風に吹かれながら、自宅のドアを開けた。ほのかに赤くなった頬と、少しふらつく足取りが、久々の楽しい時間を過ごした証拠だ。


「たらいま……フド、カマ、ツン……。」

靴を脱ぎながらふらりとつぶやくと、三匹の猫たちがすぐに駆け寄ってきた。


「おかえりプゥ!」

フドが真っ先に駆け寄り、尻尾を大きく振りながら紗月の足元に顔を押し付けた。


「フド、ただいま……おやつは……ないよ?」

紗月は笑いながらフドを抱き上げた。フドは少し不満げに顔を上げたが、それでもゴロゴロと喉を鳴らしている。

「いい匂いがするプゥ……でも、今日はおやつじゃなくて癒してあげるプゥ!」

そう言いながら、フドはぽっちゃりした体を紗月の腕に押し付けた。


「おかえりニャー!」

次にカマが駆け寄ってきて、紗月の足にまとわりつく。甘えるような声で何度も「ニャー、ニャー」と鳴きながら、必死にスリスリしてくる。


「カマ、そんなにくっついたら転んじゃうよ……。」

紗月はふらつく足元を気にしながら、カマをそっと抱き上げた。

「今日、楽しかったけど……ちょっと疲れちゃったな……。」

その声に反応するように、カマは紗月の顔にそっと鼻を押し付けた。

「大丈夫ニャ。僕が紗月を癒してあげるニャ。」


ツンは玄関から少し離れた場所で、紗月の様子をじっと見ていた。

「全く……こんな時間まで飲んで帰ってくるなんて、無防備ダカラ。」

そう言いながらも、ツンはゆっくりと紗月に近づいた。


「ツン……お説教しないでよ。」

紗月が苦笑いすると、ツンはそっぽを向くような仕草を見せたが、しっぽを紗月の足元に軽く触れさせた。

「早くソファに座りなさいダカラ。」

ツンはそう言うように紗月をリビングへ導くと、自らソファに飛び乗り、隣にスペースを空けた。


紗月がソファに腰を下ろすと、フドは膝の上に飛び乗り、カマはその横で丸くなる。ツンはさりげなく紗月の肩に寄り添うように座り、静かに目を閉じた。


「みんな、ありがとう……本当に……。」

紗月は三匹の温かさを感じながら、目を閉じた。心地よい毛並みの感触と、ゴロゴロという喉の音が、疲れた心と体をじんわりと癒していく。


「本当に手がかかる飼い主ダカラ……。」

ツンは小さくため息をつきながらつぶやいたが、その声にはどこか優しさが含まれていた。


「でも、あんたたちがいてくれるから、私、頑張れるんだよ……。」

紗月の呟きに、三匹はそっと体を寄せた。その夜、酔いと疲れを忘れるような温かい時間が、静かに流れていった。


「猫と家畜の物語」第五章:フドと酔っ払い紗月の攻防戦


ソファに倒れ込んだ七瀬紗月は、ほろ酔いのまま三匹の猫たちに囲まれていた。ふらふらした状態ながらも、癒しを求める心だけはまっすぐだ。そしてその矛先は、柔らかいお腹がトレードマークのフドに向けられた。


「フド……あんたのお腹、ほんと最高だよね……。」

紗月が酔った勢いでフドを膝の上に乗せると、そのふっくらとしたお腹をじっと見つめる。


「な、何するプゥ!?」

フドは危険を察知して身をよじるが、酔っ払い紗月の執着心からは逃れられない。次の瞬間、彼女は勢いよくフドのお腹に顔を埋めた。


「ふわふわで最高……癒される……。」

紗月はフドのお腹に顔をうずめたまま、夢見心地な声を漏らす。


「ちょっと!やめてほしいプゥ!」

フドは必死に後ろ足を突っ張り、紗月の顔をガードしようとする。だが、酔った紗月の腕は意外と力強く、彼の抵抗をものともせずお腹に顔を埋め続ける。


「ほら、やめるプゥ!これはプライバシーの侵害プゥ!」

フドは後ろ足で紗月の顔を軽く蹴るように押し返す。

「もふもふすぎる……最高すぎる……。」

紗月は全く聞く耳を持たない。


「フド、大変そうニャ!」

状況を見かねたカマが、紗月の足元に駆け寄ってきた。

「紗月、僕も撫でてニャ!」

甘えた声で気を引こうとするカマに、紗月が少しだけ顔を上げる。


「あら、カマも甘えたいの?じゃあ、後でね……。」

そう言いながら再びフドのお腹に顔を埋めようとする紗月を、フドは全力で後ろ足で押し返した。


一方、窓際でその様子を見ていたツンは、冷めた目でつぶやいた。

「ほんとにどうしようもない飼い主ダカラ……。」

しっぽを揺らしながら近づいてきたツンは、紗月の肩にそっと前足を置き、真っ直ぐな視線を送る。


「紗月、少し落ち着きなさいダカラ。」

その冷静な「注意」に、紗月はようやく動きを止め、少しだけ我に返った。


「え……あ、ごめんね、フド……。」

紗月はフドをそっと膝から下ろし、申し訳なさそうに頭を下げた。フドはほっとしたように「まったく、気をつけてほしいプゥ……」とつぶやきながら、カマの横に丸くなった。


その後の紗月とツン


「もう少し落ち着いて行動するべきダカラ。」

ツンはそう言うと、紗月の膝に飛び乗った。そして、少しだけ肩に体を寄せた。


「ありがとね、ツン……。」

紗月はツンのしっぽを優しく撫でながら、三匹の猫たちに囲まれて心を落ち着けていった。


フドのお腹での攻防戦は幕を閉じたが、紗月の心は確実に猫たちの温もりで癒されていた。疲れと酔いで目を閉じる彼女を見て、ツンは小さくため息をついた。


「ほんとに手がかかる飼い主ダカラ……。」

ツンの言葉に、フドとカマも小さくうなずいていた。

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猫と社畜は癒されたい わたなべよしみ @reno2357

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