第5話 あたたかい部屋
日曜日の朝、毎日7時にセットしたスマホの目覚ましを止めてゆっくりと起き上がる。カーテンを開けると、部屋の中にいた暗闇達が逃げるように部屋の隅へ滑っていく。窓を開けると雲ひとつない青空が広がる。3月も中旬になり、だいぶ暖かくなってきたものの、まだ朝の空気は冷たい。窓を閉め、台所へ向かう。
当初不安だった家電の使用にはすぐに慣れた。電子レンジは何分温めるかを選べばいいし、冷蔵庫は物を入れておけば勝手に冷やしてくれる。慣れた、といってもたぶん使いこなせてはいないのだが僕にはこれで充分だ。
新しい挑戦としては冷凍したものをレンジで解凍する、ということをした。前の冷蔵庫には冷凍室が付いていなかったので、冷凍して保存するというのができなかった。今では立派な冷蔵庫があり、もちろん大きな冷凍室もあるので冷凍し放題である。僕の持論として、冷凍しておけば食べ物は半永久的に腐らないと思っている。最近は惣菜なんかを買い溜めして冷凍して少しずつ食べているが、体の調子も良い。冷凍庫と電子レンジ、この2つを発明した人には敬意を払わざるを得ない。
バイトがない日は特にすることもないので、散歩をしたり本を読んだりして過ごす。今日は本格的に掃除でもしてみようか。元々荷物も少ない分汚れてはいないのだが、まだこの家の隅々までよく知らないこともあって、掃除がてら収納スペースやらなんやらを確認しようというわけである。
部屋は4部屋。各階に2部屋ずつある。1階には、キッチンダイニングとリビング。それに収納スペースが8つ。2階には、たぶん寝室が2つ。僕は専ら1階でしか生活をしていないので、2階に上がったのは来た初日だけなのだ。だから寝室であろう2階の部屋には、ベッドどころか電気さえつけたことがない。
階段を上がっていくと、やはりあたたかい。最近の家というのは保温がしっかりしているのだなと思う。このおかげで電気代は大分節約できている気がする。
さて、2階には寝室の他に、1階と同じく8つの収納スペースのような扉があった。一体この家を作った人はどんな収集家だったのだろうかと疑ってしまう。
掃除機はないので、バケツと雑巾を持って水拭きをしていく。だんだんと汚れていくバケツの水を見ながら、使っていなくてもやはり埃は溜まるんだなーと考えていると、あっという間に拭き終わった。
小さな達成感を感じながら1階でインスタントラーメンを食べる。この家に来てから生活環境はとても快適になった。家賃も破格だし申し分ない。しかし…
「僕には広過ぎる」
この家に入った瞬間からこの感情は消えなかった。新生活へのドキドキもあり、この感情に蓋をしてはいたが、やはり日に日に大きくなっていくのが分かった。元々物が少ない上に、子どもの頃から土管の中とか押入れの中とかが好きだった。狭いところの方が自分の世界を明確に感じることができるような気がする。
ラーメンの丼を洗い終わると、僕は自分の中にある考えを確かめたくなっていた。
不動産屋さんで聞いたこととこの家のこと。人は、「そんな訳はない」と思っていても確かめずにはいられない。
僕は、1階にある1つの収納スペースの扉に手をかける。
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