第4話 あたたかい部屋

駅から徒歩15分程のその建物は、よくある蔓のような草のようなニョロニョロした植物に覆われていた。築30年と聞いていたが、そこまで古くは見えない。しかし、聞いた通り何か少し嫌な雰囲気のある建物だ。草の隙間から見える外壁には、地面に近いところや屋根に近いところに小さな窓のような四角い枠がたくさんついている。窓のような、と思ったのは、窓であれば中が見えるはずだが、内側に壁のようなものがあって、近づいて見てみても何も見えなかったからである。


横に3つ並んだ玄関から、僕の部屋となる102号の前に立つ。玄関の前には7.8段程の階段がある。部屋数や収納スペースが多いと聞いたので、地下に収納スペースがあるのかもしれない。僕のような最低限の荷物しか無い人間にとっては必要ないのだが。

先程もらった鍵で玄関を開ける。玄関を開けて中に入ると、外よりも心なしか温かい。エアコンのような感じではなく、祖母の家にあった、石油ストーブの上に乗せた薬缶が湯気を上げているような、適度な湿度のある温もりを感じる温かさだ。もちろん石油ストーブとまではいかないが、寒いと感じる程ではない。外の風を防げるからか、はたまた壁を這っていたあの蔓や草によって温かさが保たれているのか、と考えながら部屋の奥へ進むと、まだ真新しい棚や冷蔵庫を見つけた。

「入れ替わりがよくあるんで、家具とか使えそうな物はそのままにしてあるんです。もし要らないようでしたら処分しますが、どうされますか」

「それは助かります。是非使わせていただきます」

「それは良かった。実は処分するのもお金や手間がかかるんで中々面倒なんでね。たぶんまだ新しいものばかりだと思いますので」

不動産屋の店主からそう言われ、以前使っていた何十年ものかも分からない中古の冷蔵庫や電子レンジは全て捨てた。一応売れるか調べてはみたが、予想通り古い年式の物に価値はないようだったのでまとめて粗大ゴミに出した。むしろ、骨董品屋さんに持って行ったら価値を見出せたかもしれない。

その部屋にあった家電製品は、今まで使っていた物と比べるとまるで別物のように見える。冷蔵庫からは、「ゔおおおん…」という大きなうねり声は聞こえないし、電子レンジはくるくる回すダイヤルは消え去り、小さい液晶画面と様々なボタンが並んでいる。

「使いこなすには時間がかかりそうだな」

と、僕は新しい部屋での新生活に少し不安を覚えた。

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