第3話 俺も毎日、行ってんの

「そっち側に立たれると、まぶしいなぁ」


大輔にレストランのことを教えてくれた男の人は、全身、よく日に焼けている。


太い眉、ぱっちりした目、まさしく沖縄の人。


「上の坊主と母親はよく似てるな。下のは父親似?」


「よく、言われます」


 彼は、髭のないあごの下に手を当てた。


「母親は、どっかで見た顔だ。香港の女優? ジャッキー・チェン、は男だし、ジャッキーなんとか。とにかく内地の人間?」


「そう、ですけど、あの、この子に教えてくれたレストランはどこにあるのか、お教えていただけますか?」


「待て待て、そうせかすなって」


 彼は釣り糸を引きあげた。


「お前さぁ、知らない男がおいしいって言っただけで行くの? チビも連れて? 変な店だったらどうするのさぁ」


 こども達とつないでいる両手に力をこめる。


「ここは漁港で、近くにお魚がおいしいレストランがあると聞けば行ってみたくなるし、パンもおいしいって聞いたから。私達、パンに目がないんです」


「よくわかんないけど、食い意地がはっているってことさぁ」


「食い意地というより、おいしいものには妥協しないってことかな。ね?」


 こども達に同意を求めたが、二人はぽかんとした顔で彼を見ている。


「美味しいものには妥協しない、ねえ。まあ、何事もほどほどにしないと」


 彼は立ちあがり、「店はこっち」とあごを動かした。


「だいたいの場所を教えてもらえたら、自分達で行きます」


「俺も毎日行ってんの。で、今、何時?」


「11時15分です」


「ちょっと早いけど、いいか。ついてきな」


 彼は港を抜けてコンビニの横を通り、車通りが少ない車道を横断した。


 私はこども達の手を引き、早足で信号がない横断歩道を渡る。


「大丈夫かな」


春樹のつぶやきが私の胸にも広がっていく。


彼は後ろを振りむくことなく、『アンマー市場』と消えそうな看板がかかった細い路地へ入っていった。

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