第4話 こんな閑散とした市場には来たことがない
空気が変わった。
潮風が、ここで止まっている。
「ネコさん。あっちにもこっちにも」
大輔が指さしている。
猫達は人の姿に動じることなく、『昭和食堂』と書かれた古い店の脇にたむろしている。
それにしても暗い。
本来なら空があるべき場所を、穴が空いたトタン屋根が覆っている。
こんな閑散とした市場には来たことがない。
品物が乗っていないシルバーの台があちこちで放り置かれ、蒲鉾を売っている恰幅のいいおばぁはザルの横に突っ伏して寝ている。
コンクリートの壁にはひびが入り、緑の黴が付着し、金属でできた柱は完全に錆びていて、いつまで建物を支えていられるのか不安になる。
「お母さん、レストランはどこにあるの? 間違っているんじゃない?」
春樹が私とつないでいる手に力を込めた。
見渡しても、それらしい店はない。
案内してくれた彼は、雑貨店の前で腰が曲がったおばぁと話している。
私の手を離して、大輔が彼の方へ走りだした。
「大ちゃん」
「滑るよ」
私と春樹が叫んだとき、島ぞうりの大輔は滑って尻もちをついた。
あの勢いでコンクリートにお尻をぶつけたら、さぞかし痛いだろうなと思ったら、案の定、大輔は大声で泣き始めた。
彼は私達より先に大輔の前で屈み、
「ほら、
と飴を乗せた手を差し出した。
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