第31話

顔を上げたら、白いヘルメットらしきものが遠くに見えた。


 ヘルメットの下は、茂った緑のさとうきびに隠れているが、たぶん黒い制服。


 マモルくんだ。ついに、マモルくんを見つけた。


 小走りになる。


 マモルくんは、青空を背に堂々と立っている。


 肩幅が広い。


 道路からの光の反射で、白い顔がますます白く見える。



 近づいたら、マモルくんは交通安全の台に乗っていて、私の2倍近い高さがあった。


 だから、目を合わせることができない。


 マモルくんの正面に立ち、マモルくんの白目が多い目で射すくめられたかったのに。



 鞄を置き、マモルくんを見上げる。


 息が切れて、汗だくで、考えがまとまらない。



 電話が鳴っている。遠いところで。



「何回もかけたのに、どこにいるんだよ」



「ごめん。ぼうっとしていた」



「だから、どこにいるんだって」



「海から一本入った大通りを北へ行くと、左側に宮古島マモルくんがいて、そこにいる」



「近くにバス停がある?」



 さっきの車が来た方向に、屋根つきのバス停があった。



「ある。地図を持っているの?」



「そこから動くなよ。3分もかかんないから」



 賢人が来る。


 長い間、賢人に会っていないような気がする。


 鞄の上に腰をおろし、もう一度マモルくんを見上げる。


 すくっと立っているマモルくんは、きっと頼りになるだろう。 



 海からの風がゆるく流れている。


 もうすぐ、宮古島旅行、賢人とのサワームーンが終わる。

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