第30話

歩きながら、鞄を探り、スマホを手に取る。


 賢人からだ。


 出るのを止めようかと思うが、出ないのも逃げているようだ。



「俺もそっち行こうか?」



「……来なくて、いいよ」



「なかなか帰ってこないから寂しくてさぁ」



「…そう、かな」



 今の時刻を聞きたいが、それもおかしい。



「なんで息づかいがあらいんだよ。まさか」



「バカじゃない。歩いて、いるから」



「どこに?」



「よく、わからない」



「由梨ちゃんさぁ、まだ酔ってんの?」


 それもあったか。


 でも、この汗でアルコールは完全に抜けているはずだ。



「お前、そういうとこあるよな」



「何とも、言えない」



「暑いだろ。迎えに行くから待ってな」



「いいって。場所、わからないでしょ」



 電話は切れた。


 時刻は8時、まではわかったが、太陽の光が画面に反射してよく見えない。


 何時でもいいや、と思い、スマホを鞄にしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る