第29話

道の先に海が見えた。


 テレビのCMに出てきそうな水色の海と白い砂浜。


 日曜日の朝だからか人の姿は見えない。


 海を目の前にして、大通りを左へ曲がる。


 確か、こっちの方にマモルくんがいたはずだ。


 少しくらい間違っても、マモルくんはいる。


 宮古島のどこかに必ずいる。




 息苦しい。


 海が近いせいか、空気に水分や塩分が多く含まれている気がする。


 重い空気が喉や体にまとわりついてくる。


 こんなに歩いたのは、いつ以来だろう。


 今頃、賢人はエアコンの効いた快適な部屋で眠っているのだろう。


 賢人の横で寝ていたかった、という思いに浸らないように歩き続ける。


 が、足のかかとに痛みを感じる。靴ずれかもしれない。



 大通りなのに、通り過ぎる車は数えるくらいだ。


 しかもほとんどレンタカーで、私をじろじろと見ていく。


 歩きながらアイスコーヒーを飲み干し、小さくなった氷を噛み砕き、空になったカップを鞄へしまう。


 これで、手が自由になった。


 スマホも持てる。


 そうだ、スマホでマモルくんの場所を調べればいい。


 それより、麗奈の様子を聞くために電話をするのではなかったか。


 でも、一度立ち止まったら、二度と歩けない気がする。


 そしたら、私はタクシーを呼んでペンションに帰るしかない。


 賢人がいるところに。


 浮気をしないとは決して言わない元夫のところへ。


 そして、賢人とセックスして気持ちよくなって。


 二人で年をとって……。


 まっすぐ歩き続ける。


 コンビニもない。


 商店もない。


 さとうきび畑や低木に紛れて、時々、民家がある。



 聞き覚えのある電子音が微かに聞こえ、それが呼び出し音だとわかるまでに数秒かかった。

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