第11話

「俺の驕りだから遠慮せずに頼めよ」



 そう言ったのに、運ばれる料理に対して少なくて高い、内地価格・観光客価格だ、と賢人は一言文句を言ってから口に運び、さすがにうまいな、と笑った。


 細長いグラスに入った生ビールで乾杯し、宮古牛のたたき、近海魚のカルパッチョ、トマトとバジルのシンプルなバスタを頼んだ。


 テーブルに並んだ地元食材を使った色鮮やかな料理を口に入れ、何度も噛んで味わう。


 麗奈がいない、しかも帰る時間を気にしなくていい外食は、麗奈を出産後、初めてだ。



「お前、食べているときが一番幸せそうだな」



 うん、とうなずく。


 なんだか、正面に座っている賢人は、テレビに出ている人のようだ。


 私の感情の外側にいるような。


 賢人の眉、太い。一時期、細くし過ぎてまるで似合っていなかった。今は程よい太さで、ほっとする。


 グレーの細い縁の、四角い眼鏡。眼鏡が賢人を公務員に見せているのは間違いない。


 しっかりした鼻。


 唇は思ったより薄い。厚い唇が嫌で小学生のときから唇を少し内側に入れて噛んで、薄くなるようにしていたと言っていた。


 バカみたい。そんなことする男子っているんだ。


 ていうか、私の下唇は厚いけれどいいの? 


 お互いに裸で、くっついて話した。



「見つめんなよ。お前はわかりやすいなぁ」



 普段なら、元夫からお前と気安く言われたくないけれど、今は無視してビールを飲む。



「エロいこと考えてんだろ? 今」



「それは賢人でしょ。本当、頭ん中、小学生男子だよね。下ネタ大好きで」



 にやっと笑い、賢人は席を立ち、スマホをテーブルの端に置いた。



「トイレ行ってくる。絶対見んなよ、それ」



「なら、置いていかなければ」



 答えず、賢人はゆっくりと歩いて行く。

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